2019年04月18日

特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」

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去年のうちから東京開催を待ち焦がれていた東寺展。
平安京遷都に際し、官寺として建立された東寺(教王護国寺)
弘法大師空海は、ここを真言密教の根本道場としました。


この展覧会では、東寺が所蔵する100件以上の密教美術品や仏教文化財が紹介されます。
うち31件が国宝。
見どころはなんといっても、空海が難解な密教体系を人々にわかりやすく理解させるために作った立体曼荼羅。
21体ある立体曼荼羅のうち、国宝11体、重文4体の合計15体の仏像群がやってきます。
これほどまでに東寺の外部で展示されるのは、今回が初めてです。
会場は4部構成です。
第1章 空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)
第2章 密教美術の至宝
第3章 東寺の信仰と歴史
第4章 曼荼羅の世界
第1章 空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)

「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」とは、真言宗十八本山の各山の高僧と百名近い僧侶が、一日三座七日間にわたり国家の安泰や世界平和を祈願する、真言宗最高の厳儀。
その際の堂内の様子が、会場に再現されています。

● 国宝 金銅密教法具

法具は密教の祈りに使われるもの。
金銅盤の上に法具3点が乗った組法具は、空海の日本帰国に際して師の恵果が授けたものの一つと考えられています。

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国宝 金銅密教法具「五鈷杵」「五鈷鈴」「金剛盤」各1口
中国 唐時代・9世紀

第2章 密教美術の至宝

密教の独特な芸術品が紹介されます。
難解なところもありますが、そこは密教ですから、仕方がありませんね。

● 両界曼荼羅図

金剛界と胎蔵界の両界曼荼羅図。彩色されたものとしては現存する最古のもの。
インド風の画風で描かれており、東寺の西院で使用されていました。

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両界曼荼羅図(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉) 2幅 平安時代・9世紀

第3章 東寺の信仰と歴史

順を追って、いよいよ仏像の展示室に入ります。

■ 国宝 兜跋毘沙門天立像

8世紀の唐で作られた、中国オリジナルのエキゾチックな毘沙門天像。
すらりとした体躯に中央アジア風の衣装と顔立ち。
平安京の守護のために、羅城門の楼上に立っていたと伝えられます。

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「国宝 兜跋毘沙門天立像」
中国 唐時代・8世紀

このウエストの細さよ!
掲載しているチラシの画像は、下部が切れていますが、実際には足元に「地天女」とその両脇の「尼藍婆」「毘藍婆」がいる、かなり独特の像になっています。

第4章 曼荼羅の世界

いよいよ東寺講堂の立体曼荼羅のコーナー。
密教の経典『金剛頂経』の世界観を立体的に表したもので、21体の仏像から15体(うち国宝11体、重文4体)が展示されています。
毎回東寺の講堂に入るたびに圧倒される大迫力の立体曼荼羅が、ここ上野で観られるなんて。
こんなに東京に持ってきてくれるなんて、ありがたいことです。
現在の東寺には、6体しか残されていないため、今講堂に行った人はがっかりすることでしょう。

「五大明王」は不動明王以外すべて見られます。
一番中心となる不動明王像は写真のみですが、ほかの明王たちはどれもおそろしいほどの大迫力です。

■ 降三世明王立像

東方を守護する降三世明王はシヴァ神夫婦を踏みつけています。
どちらも顔立ちは穏やかで、とても悪しきものには見えません。
むしろ4つの顔を持ち、どの顔も恐ろしげな明王の方が悪の権化のように思えます。
初めて見た時にはショッキングでしたが、これこそが空海が求めた、密教をわかりやすく伝えることなのでしょう。

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降三世明王立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

この展覧会では、全角度展示のため、仏像を360度から鑑賞できます。
これは普段安置されている講堂では不可能なこと。
降三世明王の後ろ側に周ると、通常は決して見ることができない、更なる恐ろしい顔を見つけられます。

■ 大威徳明王騎牛像

西方を守護する阿弥陀如来の化身、大威徳明王。
6つの顔、6本の腕、6本の足を持ち、全てに動きを感じます。

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大威徳明王騎牛像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

正面からだとわかりませんが、横から見ると、牛は首を引き、角を立ててこちらを威嚇しています。
明王も牛も、どっちもこわい!

■ 持国天立像
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持国天立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

四天王は「持国天」「増長天」の2体がやってきています。
衣装の流れに風の動きを感じます。

■ 増長天立像

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増長天立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

■ 国宝 帝釈天騎象立像

今回、この帝釈天像一体が撮影可能となっています。
東寺の講堂内は撮影不可のため、ここで撮影できるとはすごいことです。
普段は曼荼羅の左端に位置し、決まった角度からしか見られない帝釈天を、ぐるりと回り込んで鑑賞します。
柱越しに見るため、こんなに軽やかに像にまたがっているということも、これまであまり実感できずにいました。
うーん、すばらしい。

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国宝 帝釈天騎象像
平安時代・承和6年(839) ※写真撮影可能

講堂の照明とは違う、一つ一つの作品に向けて計算されたライティングにより、仏像群は宗教的な意味合いを持つだけでなく、精緻な彫刻の施された芸術品であるということを、改めて再確認できました。

東寺の帝釈天は日本一のイケメン仏像として知られているため、女性が大勢観に来ているのかと思いましたが、この像の周りを取り囲んで熱心に撮影しているのは、圧倒的に男性が多かったのが印象的。

ただ個人的には、東寺の立体曼荼羅では帝釈天よりも梵天がお気に入りの私。
今回の展示品の中にはなく、留守番の6体の方に入っているのが残念です。
いずれにせよ、展示品の充実ぶりに満足度の高い東寺展。
会期後、全ての仏像が京都に戻ったのちにまた、東寺の講堂を訪ねてみたいと思います。
開催概要
特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」
会期 2019.03.26-2019.06.02
会場 東京国立博物館
posted by リカ at 18:35| Comment(0) | 【finearts】書・版画・彫刻 | 更新情報をチェックする

2019年04月16日

「ギュスターヴ・モロー展 ー サロメと宿命の女たち ー」

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パナソニック汐留美術館

19世紀末フランスの象徴主義を代表するギュスターヴ・モロー(1826-1898)。
彼の作品には、神話や聖書に登場する女性が多数登場し、特に新約聖書に登場するサロメを描いた作品は、19世紀末ファム・ファタル(宿命の女性)のイメージ形成に影響を与えました。
本展では、パリの国立ギュスターヴ・モロー美術館の所蔵品約70点から、実生活における身近な女性や、神話や聖書に登場する女性、誘惑し男性を破滅へと導くファム・ファタル(宿命の女)といった多様な女性像が紹介されます。
展覧会は4部構成。
第1章 モローが愛した女たち
第2章 《出現》とサロメ
第3章 運命の女たち
第4章 《一角獣》と純潔の乙女
■ 第1章「モローが愛した女たち」

彼が大切にした母ポーリーヌへの自筆の手紙や、30年近く恋人だったアレクサンドリーヌ・デュルーのデッサンなどが展示されます。

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《アレクサンドリーヌ》 インク・鉛筆/紙
ギュスターヴ・ モロ一美術館蔵
Photo(C)RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF 

彼の日常は、作品に描かれる激しさを秘めた女性とは対照的に、物静かな温かい愛情に包まれていたと感じられます。

■ 第2章「《出現》とサロメ」

モローが精力的に取り組んだサロメの習作や完成作品を並べることで、彼が生み出した美しく残忍な悪女としてのサロメのイメージ生成の変遷が伺えます。
新約聖書に登場するサロメのモチーフに、モローはさまざまな時代や地域の建築・装飾様式を取り入れ、独自の解釈を加えていきました。

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ギュスターヴ・モロー《サロメ》1875年頃
油彩/カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵
PhotocRMN-Grand Palais / Christian Jean / distributed by AMF

全身に文様の入った「刺青のサロメ」のデッサンなどもありますが、この作品は東洋風の衣装を着ています。
さすがモロー美術館からの所蔵コレクション。ここまでよくサロメを描いた作品を集めたものだと思います。 
カルタゴを舞台にしたフローベールの小説『サランボー』を元に独自の想像力を用いて、モローはサロメを特徴づけていきました。

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《出現》 1876年頃 油彩
ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo c RMN-Grand Palais / Rene-Gabriel Ojeda / distributed by AMF

洗礼者ヨハネの首の幻影が空中に現れるという大胆な発想は、パリのサロン展でセンセーションを巻き起こし、19世紀末の芸術家たちに多大なインスピレーションを与えました。
それまで聖書の登場人物の中でもほとんど脚光を浴びてこなかったサロメは、モローによる試行錯誤の末に、世紀末に一世を風靡したファム・ファタル(宿命の女)の主要アイコンとなったのです。

■ 第3章「運命の女たち」

悪女としての魅力的な女性が登場します。
神話や聖書に登場する、男性を誘惑して死へと導くファム・ファタル。
モローは様々な女性を描いています。

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《エウロペの誘拐》 1868年 油彩/カンヴァス
ギュスターヴ・ モロ一美術館蔵
Photo c?RMN-Grand Palais / Rene-Gabriel Ojeda / distributed by AMF

宗教絵画によくみられる題材ですが、モローの作品は他の画家によるものとは少し異なります。
さらわれるエウロペが全く怖がっていません。また、少年のようであまり女性らしさはありません。
牡牛に変身したはずのゼウスは、ケンタウロスのように上半身が人の姿となっており、従来の牛と女性の構図ではなく、男女の構図として描かれています。

ほかにもギリシア神話の一シーンを対峙する男女になぞらえた《オイディプスとスフィンクス》。
恐ろしい怪物スフィンクスの上半身は美しく魅力的な女性として描かれています。

また、ヘラクレスを奴隷として扱ったオンファレ女王《ヘラクレスとオンファレ》など、とにかくモローは強くて気丈な女性を描くのが得意。
ヒロインに母親の姿を投影しているのかもしれません。

■ 第4章「《一角獣》と純潔の乙女」

これまでとはがらりと変わり、美しくたおやかな乙女が描かれます。
モローがパリのクリュニー中世美術館所蔵のタピスリー《貴婦人と一角獣》にインスピレーションを得て描かれたもの。
貞節の象徴とされた一角獣と女性が描かれており、穏やかで平和な雰囲気が漂っています。

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ギュスターヴ・モロー《一角獣》1885年頃
油彩/カンヴァス 115×90cm
ギュスターヴ・モロー美術館蔵
PhotocRMN-Grand Palais / Rene-Gabriel Ojeda / distributed by AMF

モロー作品がぎゅっと詰まった展覧会。
パリのモロー美術館を訪れているような気になりました。
素描も多いことから、作成途中のモローの創意工夫も見られます。
作品ごとにドラマチックなヒロインたちが際立っており、現実を忘れてひと時幻想的な世界を過ごすことができます。
開催概要
ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち
会場:パナソニック 汐留美術館
期間:2019/4/6(土)〜6/23(日)
posted by リカ at 17:09| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする