2019年04月24日

サンダーソンアーカイブ ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 -美しい生活をもとめて-

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去年の夏から全国のあちこちで開催された「ウィリアムモリスと英国の壁紙展」。
ここ横浜が最後の展示となります。
19世紀に起こった産業革命により、イギリスの中産階級の生活様式は一変しました。
それまでの部屋の内装に使われた漆喰や壁画、タペストリーから、手頃な値段の壁紙が流行したのです。

1870年代に活躍した詩人兼デザイナーのウィリアム・モリス(1834-96)。
自然と装飾とを組み合わせた彼の壁紙デザインは、当時の時代背景に乗って人気を呼び、人々の暮らしの中に浸透していきました。

この展覧会では、モリスのデザインを中心として、英国の壁紙会社サンダーソン社所蔵の歴史的壁紙や版木など、約130点が英国外で初めて展示されます。つまり日本初公開です。
その中には日本から輸入した金唐紙もあり、ジャポニズムの影響を見ることができます。

第1章 ウィリアム・モリス以前 ~フレンチ・スタイル、リフォーム・スタイル、オリエント・スタイル

モリスが登場する前のイギリス壁紙の変遷が展示されます。

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《花とロココ調スクロール》1850年頃

19世紀半ばのイギリスでは壁紙の生産量が高まり、フランス風デザインから平面的・幾何学的なパターンに変わりました。
万国博覧会をきっかけとして注目された東洋風デザインもあり、日本の「金唐革紙」からの影響も紹介されます。

第2章 ウィリアム・モリスとモリス商会 ~モリスのデザイン(1860-90年代)、モリス商会の活動

モリスの活躍により、壁紙のバリエーションは一気に増えました。
花や鳥のモチーフや、連続した幾何学的な法則性が見える作品など、モリスの壁紙デザインがずらりと鑑賞できるのがこの第2章。
制作用版木も並べられ、日本の版画と同じように色を重ねていく制作方だとわかりました。


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《ピンパーネル(るりはこべ)》1876年


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ジョン・ヘンリー・ダール《ゴールデン・リリー(黄金のゆり)》1899年

● クラシックモリスコーナー

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モリスデザインの壁紙を用い、英国アンティーク家具を備えたトラディショナルな居間のコーナー。

第3章 アーツ・アンド・クラフツ運動

ここではモリス以降、彼のデザインに影響を受けた19世紀末から20世紀初めのデザイナーたちの壁紙が紹介されます。
大量生産の潮流の中で、手仕事で美しく有用なものを作ろうとし、生活の中の芸術をめざしたモリスの思想は、のちのアーツ・アンド・クラフツ運動につながっていきました。

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C.F.A.ヴォイジー《サヴァリック》1896年頃

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ドロシー・ヒルトン《オレンジとレモン》1902年頃

ピュアモリスコーナー

現代のライフスタイルに合わせたモノトーンのコーナー。
モリスが目指した「生活の中に美を取り入れる」という考え方を現代モダン風に表現しています。

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日本では、部屋の壁紙はあまりなじみがありませんが、数多くのパターンに共通しているのは、そのどれもが人が住む部屋の心地よさを目指したデザインだということ。
人々の暮らしが豊かになっていくにつれて、生活の心地よさや華美ではない装飾が日常に求められ、取り入れられていった様子を、さまざまなデザインからうかがい知ることができます。
さりげない「生活の中の美」を目指している壁紙は、どれも時代を経ても色あせず、飽きがこない美しいデザインです。
2019年4月20日(土)~2019年6月2日(日)
会場 そごう美術館

2019年04月22日

藝大コレクション展 2019

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古美術、絵画、彫刻、工芸をはじめとした藝大コレクションは、約3万件にのぼります。
前身となる東京美術学校時代から130 年にわたって収集され、学生の教材として用いられた美術資料や、教育成果として学生がのこした制作品群、そして歴代教員の作品・資料によって構成され、現在も収集され続けています。

毎年恒例の藝大コレクション展。今年は、よく知られた名品とともに、これまで紹介される機会の少なかった藝大所蔵品も展示しています。
第1期と第2期に分けられ、大きな展示品の変更が行われるそう。今は第1期展示会となります。

構成
名品:西洋画
池大雅《富士十二景図》全点展示
イギリスに学んだ画家たち
名品:日本画
新収蔵品

■ 名品:西洋画

まず、会場に入るとすぐに、ラファエル・コランと黒田清輝の2枚の大きな西洋画が出迎えてくれます。
黒田清輝はラファエル・コランに学び、東京美術学校で洋画を教えました。
つまり師と弟子の作品です。

● ラファエル・コラン《田園恋愛詩》1882 年
[通期展示。上記展示会チラシの掲載作品]

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● 黒田清輝《婦人像(厨房)》明治 25 年(1892)

美術の資料集で見たことがある作品を実際に目にすると、感激が違います。
芸大コレクションでは、よくその感動と出逢えます。

■ 池大雅《富士十二景図》全点展示(第1期:4月6日 - 5月6日)

今回での最大の注目点は、池大雅《富士十二景図》の連作が展示されていること。
江戸の文人画家、池大雅が妻玉瀾のために描いたとされる《富士十二景図》は、全12 幅ありますが、そのうちの1幅《九月 緑陰雑紅》の所在が長らく不明でした。
あまり見る機会がない作品ですが、最後の1幅が発見され、収蔵されたことを記念して、滴翠美術館所蔵の4 幅とあわせた全12幅を展示しています。
こちらは、第1期のみの展示となります。
ようやく揃った12個の掛け軸が一月から十二月までずらりと並んでいるのは、壮観でした。

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池大雅《富士十二景図 九月 緑陰雑紅》江戸時代(18 世紀)
※ 第1期(4月6日~5月6日)のみ展示

■ イギリスに学んだ画家たち(通期)

日本の明治・大正期の西洋画はフランス美術の影響が注目されてきましたが、この特集では原撫松や南薫造、牧野義雄などの作品にスポットを当てて、イギリス美術の影響を見直しています。
黒田清輝などフランスに留学をする人が多かった時代に、原撫松はイギリスに留学し、ロンドンのナショナル・ギャラリーなどで模写を行って、油彩絵画技法を学んだそうです。

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原撫松 《裸婦》 明治39年(1906)

レンブラントやカラヴァッジオを思わせる光と影の効果は、まさに西洋美術の手法。

■ 名品:日本画

このセクションでは、近世以前の古画、そして近代以降の日本画・洋画の代表作品を紹介します。
葛飾北斎の《尾州不二見原》は、富嶽三十六景の中でも好きな構図の一作。
「近代日本画の祖」と呼ばれる狩野芳崖の絶筆、《悲母観音》も存在感を放っていました。

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 葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原》 天保2-5年頃

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[重要文化財] 狩野芳崖 《悲母観音》 明治21年(1888)
※ 第1期(4月6日~5月6日)のみ展示

さすがは日本の美術を牽引してきた藝大、そのコレクションは豊富で、順を追ってみると芸術の流れも知ることができます。
この学校で学び、画家として巣立って行った学生たちの卒業制作が展示されていると、その画家の原点を見るような思いがします。
第1期の開催期間はGW終了まで。大幅な展示替えが行われたのちに、第2期は一週間後の5月14日(火)から約一か月間、開催される予定です。
藝大コレクション展 2019
第1期:2019年4月6日(土) - 5月6日(月・休)
第2期:2019年5月14日(火) - 6月16日(日)
会場 東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1

posted by リカ at 18:36| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2019年04月18日

特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」

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去年のうちから東京開催を待ち焦がれていた東寺展。
平安京遷都に際し、官寺として建立された東寺(教王護国寺)
弘法大師空海は、ここを真言密教の根本道場としました。


この展覧会では、東寺が所蔵する100件以上の密教美術品や仏教文化財が紹介されます。
うち31件が国宝。
見どころはなんといっても、空海が難解な密教体系を人々にわかりやすく理解させるために作った立体曼荼羅。
21体ある立体曼荼羅のうち、国宝11体、重文4体の合計15体の仏像群がやってきます。
これほどまでに東寺の外部で展示されるのは、今回が初めてです。
会場は4部構成です。
第1章 空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)
第2章 密教美術の至宝
第3章 東寺の信仰と歴史
第4章 曼荼羅の世界
第1章 空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)

「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」とは、真言宗十八本山の各山の高僧と百名近い僧侶が、一日三座七日間にわたり国家の安泰や世界平和を祈願する、真言宗最高の厳儀。
その際の堂内の様子が、会場に再現されています。

● 国宝 金銅密教法具

法具は密教の祈りに使われるもの。
金銅盤の上に法具3点が乗った組法具は、空海の日本帰国に際して師の恵果が授けたものの一つと考えられています。

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国宝 金銅密教法具「五鈷杵」「五鈷鈴」「金剛盤」各1口
中国 唐時代・9世紀

第2章 密教美術の至宝

密教の独特な芸術品が紹介されます。
難解なところもありますが、そこは密教ですから、仕方がありませんね。

● 両界曼荼羅図

金剛界と胎蔵界の両界曼荼羅図。彩色されたものとしては現存する最古のもの。
インド風の画風で描かれており、東寺の西院で使用されていました。

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両界曼荼羅図(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉) 2幅 平安時代・9世紀

第3章 東寺の信仰と歴史

順を追って、いよいよ仏像の展示室に入ります。

■ 国宝 兜跋毘沙門天立像

8世紀の唐で作られた、中国オリジナルのエキゾチックな毘沙門天像。
すらりとした体躯に中央アジア風の衣装と顔立ち。
平安京の守護のために、羅城門の楼上に立っていたと伝えられます。

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「国宝 兜跋毘沙門天立像」
中国 唐時代・8世紀

このウエストの細さよ!
掲載しているチラシの画像は、下部が切れていますが、実際には足元に「地天女」とその両脇の「尼藍婆」「毘藍婆」がいる、かなり独特の像になっています。

第4章 曼荼羅の世界

いよいよ東寺講堂の立体曼荼羅のコーナー。
密教の経典『金剛頂経』の世界観を立体的に表したもので、21体の仏像から15体(うち国宝11体、重文4体)が展示されています。
毎回東寺の講堂に入るたびに圧倒される大迫力の立体曼荼羅が、ここ上野で観られるなんて。
こんなに東京に持ってきてくれるなんて、ありがたいことです。
現在の東寺には、6体しか残されていないため、今講堂に行った人はがっかりすることでしょう。

「五大明王」は不動明王以外すべて見られます。
一番中心となる不動明王像は写真のみですが、ほかの明王たちはどれもおそろしいほどの大迫力です。

■ 降三世明王立像

東方を守護する降三世明王はシヴァ神夫婦を踏みつけています。
どちらも顔立ちは穏やかで、とても悪しきものには見えません。
むしろ4つの顔を持ち、どの顔も恐ろしげな明王の方が悪の権化のように思えます。
初めて見た時にはショッキングでしたが、これこそが空海が求めた、密教をわかりやすく伝えることなのでしょう。

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降三世明王立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

この展覧会では、全角度展示のため、仏像を360度から鑑賞できます。
これは普段安置されている講堂では不可能なこと。
降三世明王の後ろ側に周ると、通常は決して見ることができない、更なる恐ろしい顔を見つけられます。

■ 大威徳明王騎牛像

西方を守護する阿弥陀如来の化身、大威徳明王。
6つの顔、6本の腕、6本の足を持ち、全てに動きを感じます。

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大威徳明王騎牛像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

正面からだとわかりませんが、横から見ると、牛は首を引き、角を立ててこちらを威嚇しています。
明王も牛も、どっちもこわい!

■ 持国天立像
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持国天立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

四天王は「持国天」「増長天」の2体がやってきています。
衣装の流れに風の動きを感じます。

■ 増長天立像

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増長天立像 1体 平安時代・承和6年(839) 東寺

■ 国宝 帝釈天騎象立像

今回、この帝釈天像一体が撮影可能となっています。
東寺の講堂内は撮影不可のため、ここで撮影できるとはすごいことです。
普段は曼荼羅の左端に位置し、決まった角度からしか見られない帝釈天を、ぐるりと回り込んで鑑賞します。
柱越しに見るため、こんなに軽やかに像にまたがっているということも、これまであまり実感できずにいました。
うーん、すばらしい。

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国宝 帝釈天騎象像
平安時代・承和6年(839) ※写真撮影可能

講堂の照明とは違う、一つ一つの作品に向けて計算されたライティングにより、仏像群は宗教的な意味合いを持つだけでなく、精緻な彫刻の施された芸術品であるということを、改めて再確認できました。

東寺の帝釈天は日本一のイケメン仏像として知られているため、女性が大勢観に来ているのかと思いましたが、この像の周りを取り囲んで熱心に撮影しているのは、圧倒的に男性が多かったのが印象的。

ただ個人的には、東寺の立体曼荼羅では帝釈天よりも梵天がお気に入りの私。
今回の展示品の中にはなく、留守番の6体の方に入っているのが残念です。
いずれにせよ、展示品の充実ぶりに満足度の高い東寺展。
会期後、全ての仏像が京都に戻ったのちにまた、東寺の講堂を訪ねてみたいと思います。
開催概要
特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」
会期 2019.03.26-2019.06.02
会場 東京国立博物館
posted by リカ at 18:35| Comment(0) | 【finearts】書・版画・彫刻 | 更新情報をチェックする