[Brokeback Mountain]原作:E・アニー・プルー、監督:アン・リー
主演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール
at 武蔵野興業館(新宿)
COPY<He was friend of mine.>
アカデミー作品賞受賞最有力候補と言われ、結局選ばれなかった話題の映画を観てみたいとチケットを入手していたけれど、気がつけばもう終わり間近になっており、レイトショー上映の最終日に滑り込みで観てきた。
館内は割と閑散としている。全部で20名弱くらい。男女のカップル数組、おひとりさま十人位、そして男性同士の二人連れ。
三島由紀夫のように短く刈り込んだ髪型で、(ああ、ここは二丁目に近いから・・・)と思う。
映画が始まると、ワイオミングの美しく雄大な自然が画面いっぱいに広がり、落ち着いた物静かな音楽(ギターをぽろんぽろんと奏でるような旋律)に、心が安らぐ。リリカルな雰囲気たっぷり。
時は1963年。20歳のイニスとジャックが、牧場で季節労働者として雇われ、そこで恋人関係となる。同性間の恋愛は、60年代という時代に加えて、ワイオミングという保守的な田舎であること、そして彼らがカウボーイという男らしい職業だということなどから、障壁は多く、人々に疎まれ、蔑まれることは必然とわかってはいても、彼らは愛を深め合っていく。
打ち解けるまでの2週間、まともに会話もしなかったくらいの無骨な男性たちは、とても硬派。ジャックは以前からの差別に慣れている風だったけれど、イニスはモラルや世間体、過去に見た同性愛者の惨殺死体、近々結婚する身であることなどの理由から、愛すれば愛するほど、懊悩に苦しんでいく。
二人が愛し合った翌朝、保護している羊の一頭が、コヨーテに襲われて死んでいる姿を発見するイニス。それは過去のトラウマを思い出させる暗示的なものだったように思う。
牧場での仕事が終わり、すげなく別れた様子のイニスが、ジャックが見えなくなった場所で泣き崩れる姿は切ない。不器用な彼の性格がよく出ていた。
それから互い、相手を想いながらも会えないままに4年が経つ。お互い夫となり父となって再会しても、まだ消えぬ相手への思い。
そこから時折キャンプや釣りにでかける名目で逢瀬を重ね、20年が過ぎる。
なんて時がゆっくり流れるのだろうと驚いてしまう。
ありていに言ってしまえば、彼らは長距離恋愛で不倫の関係。それでも互いを愛し続けている。
愛の素晴らしさ、喜びに酔いしれると共に、彼らには人一倍、愛の苦しみが襲い掛かる。人に言えない後ろめたい関係、なかなか会えない辛さなど、関係を続けるほどに耐えられなくなってくる障害。
「僕達には、あの夏のブロークバックしかないんだ」と言い捨てる悲しさ。
苦しみながらも愛することをやめられないまま、お互いを求め続けていた二人。ある日、突然ジャック死亡の連絡がイニスに届く。
死亡状況を彼の妻に聞きながら(もしかするとフォモフォビアに粛清されたのでは)と思うイニス。私は、妻の言うとおり、事故死だったのではないかと思うけれど、これは明らかにされない。
これまではジャックがイニスを追うという形だったけれど、ジャックが亡くなってから、はじめてイニスがジャックを追いかけるように彼の生家を訪ね、ジャックが言っていた「二人で牧場を共同経営する」という、イニスにとっては非現実な話でしかなかったことが本気だったと知る。
それからジャックの部屋で発見した、重ねられた二人のダンガリーシャツ。二人が出会った時に着ていたものを、ジャックは生涯大切に取ってあった。
まるでそっと抱きしめるかのように、イニスのシャツの上に自分のシャツを重ねてあり、ものいわぬ彼の愛情の深さに、イニスならずともおぼれそうになる。
シャツを譲り受けて、自宅のクローゼットにブロークバックマウンテンの写真と一緒に飾るイニス。今度はジャックのシャツの上に自分のシャツを重ねている。もはや妻とは離縁し、娘は近々結婚する予定。愛する者が一人また一人と離れていき、独りきりになってしまう彼だけれど、孤独感は見えない。「ジャック、永遠に一緒だよ」とジャックにつぶやきかける彼。彼の死で彼らの愛はゆるぎないものになったということなんだろう。
重くて、深くて、脈々と続く愛情がジャックの死まで20年も続いたと考えると、それが同性間のものであっても大した問題ではないように思えてくる。多くを語らぬ彼らの胸に秘めた情熱。あきらめているのにあきらめられない気持ち。お互いを求めつつも完全に自分のものにはできないことで、半分絶望し、徒労感を抱きながら愛を注いできた彼ら。それが最後に確固たる結晶のようなものに変わったのは、切なくも美しい。
いい映画だと思った。丁寧に作られていて、画面に抵抗感はなかったし、音楽も映像もきれい。エンドロールに流れる歌が彼らの気持ちにピッタリで、胸が締め付けられた。
私は堪能したけれど、ただこれはアカデミー作品賞向きではないと思った。あまりに観る人を分けるし、一般受けはしない、独特な空気のものだから。
ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作品としてはぴったりだと思った。
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なにか障害があると余計に想いを募らせるという事は誰にでもあると思います。
切ないですね。手を伸ばせば届きそうなものなのに、やはり届かないというのは…。
ピュアな映像と音楽が余計にそれらを強調させてました。確かにアカデミー向けではないのでしょうね。ハリウッドだったら絶対ハッピーエンドだし。笑
舞台は完全にアメリカですが、ヨーロッパ的につくられた静けさのある作品だなと思いました。
charlotteさんはじめ、ほかの方々の感想を読んでいたら、またいろいろと思い出すことがあって、切なさがこみあげてきました。
これはいい映画を観たという充実感に浸れますね。
観終わって、少し経ってからのほうがジワジワくる映画でした。
ほんま、ヴェネチア金獅子賞受賞にはぴったりですね♪
ゲイの純愛を描いた映画としてずいぶんセンセーショナルな取り上げられ方をした作品ですが、とても心にしみるよい作品だったと思います。
どの人物に自分を重ねてみるかで感想も違ってきますよね。
妻の立場で見ちゃうとやりきれない思いもしました。
シャツの重ね方を変えるエピソードは一番好きです。
彼らの愛はあの時代ああいう形でしか昇華できなかっただと思うと切ないです。
コメントとTB、どうもありがとうございます。
そうですね、後々思い出しては、心に迫るような静かな力を持つ作品だと思います。
アカデミー賞っぽいハデなイメージではありませんが、ヨーロッパで高く評価されたのはとってもよくわかる気がしますね。
○ミチさん
うーん、いろいろな立場から考えてみると、どんどんやりきれないような気持ちになってきますね。
誰を悪者にするでもない、偏りのない人物描写をした監督の手腕に拍手を送りたいです。
シャツ・・・心にぐぐっときましたね。うーんいい映画を観れました!
<それが最後に確固たる結晶のようなものに変わったのは、切なくも美しい。>
的確で美しい表現ですね、叙情的な映像や
アコースティックな音楽、丁寧な人物描写が
あったから、ラストで心を奪われてしまいました。
TBいただきます。
長い余韻が心に残る映画でしたね。
いろいろ思い出すたびに、切なくなってしまいます。
パフィンさんはたくさんの映画をご覧になってらっしゃるんですね。びっくりしました。
ちょくちょくお邪魔させていただきます♪