2006年07月15日

『約束 Le Monde de Marty』

LE_MONDE_DE_MARTY.jpg(2001 仏)
監督/ドニ・バルディオ
出演/ミシェル・セロー、ジョナサン・ドマルジェ、フロランス・エベリンク

舞台は病院、主人公はアルツハイマーの物言えぬ老人ベランと小児ガンの少年マーティ。
これだけでも、悲しいストーリーが簡単に想像できて、なかなか観ようという気持ちになれなかった。
家族の死というモチーフに一番弱い私にとって、見るのはとてもつらそうな気がする。
でも、勧めてくれた人が「どちらも死なないよ」と教えてくれたので、ようやく決心がついた。


実際に見始めてみると、想像していたような絶望感は感じられない。確かに老人も少年も、不治の病におかされて、闘病生活を余儀なくされているけれど、それぞれにはっきりとした自由意志を持っているところに精神の強さを感じる。

身体は目しか動かせないけれど、諧謔心を忘れていない老人のモノローグは、とてもウィットに富んでおり、偏屈な老人という枠に収まらない。少年は病院内を歩き回っていたずらを重ねていくうちに、老人を発見し、それから一気になついていく。
70歳と10歳、60歳もの年の差を越えて、孤独な心が引き合ったのだろうか。

老人も最初のうちは予測できない少年の行動に面食らうばかりだけれど、そのうちに意外性を楽しむようになる。この精神の健全性がたのもしい。子供は大人の愛情を鋭敏に感知するものだから、きっと少年には老人の好意が伝わっていたんだろうと思う。

最初はうるさい、面倒だと思っていた少年との同室生活は、そのうちに驚くようなワクワクする日々にすりかわっていく。病院の中に笑顔があふれることこそ、患者にとっての癒しになっていく。

とはいえ、シビアな現実が消えることはなく、彼らの日々の途中では、同じ病院の入院患者が次々と亡くなっていく。
なんとも意外だったのは、毎日お見舞いに来ていた老人の妻が亡くなってしまったこと。老人にとっても、まさか妻に先立たれるとは思っていなかったに違いない。心の中の苦しみが見えるようだった。

最後に、少年に連れ出されて、病院を抜け出し、車椅子で夜の街に繰り出す老人。それぞれの抱える病気からも抜け出すように、二人気持ちをあわせて前へと向かっていく。
翌朝の海岸でのシーンはとても印象的だった。車椅子が砂浜につかまり、海岸沿いまではいけないという現実。少しでも近づこうとがんばって押す少年に「いいんだよ、今日は水着を持ってこなかったから」と語りかける老人。
最後に老人が少年へプレゼントを渡す。このプレゼントのことを少年に伝えるのも一苦労だし、そもそもプレゼントを看護婦さんに用意してもらい、手紙を書いてもらうのも、並大抵の根気ではなしえなかったことと思うだけに、胸を締め付けられる。
そして老人から少年へ投げかけられる「約束」。初めは自分の死を願っていた老人が、少年との出会いで生への希望を願うようになっていた。
美しく、はかなく、でも確かに二人の絆を結びつける、強い気持ち。

いい映画だった。フランスらしいし、とても丁寧に作られている。愛すべき作品といったところ。
目の演技だけの老人役、ミシェル・セローは素晴らしかった。そして子役のジョナサン・ドマルジェは、映画初出演とは思えぬ堂々とした、そしてなるほどどと思わせる生き生きとした演技ぶりを見せてくれた。

監督の第1回長編作品とのこと。この印象的な作品は、全編を通じて彼の暖かい視線に包まれている。ほかの作品も観てみたいと思った。
posted by リカ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 【Cinema】フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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