2017年10月24日

北斎とジャポニスム

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「北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」
国立西洋美術館


19世紀後半に、長い鎖国を経て開国した日本。
海外に伝えられた日本文化は、西洋の人々を魅了し、"アール・ヌーヴォー"や“ジャポニスム”という現象を巻き起こしました。(逆黒船ですね)
中でも江戸時代後期を代表する浮世絵師・葛飾北斎の作品は、印象派の画家をはじめとした西洋美術のあらゆる分野に影響を及ぼしたといわれています。

見どころは次の3点。
① 北斎を切り口にジャポニスムという現象を読み解く、世界初の大規模展覧会
② 印象派やアール・ヌーヴォーなどの作品と北斎の作品を比べながら展示
③ 国内外の美術館、個人コレクターなど世界10カ国以上から名作が集結


国内外の美術館や個人コレクターが所蔵するモネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンをはじめとした西洋芸術の名作約220点と、北斎の錦絵約40点、版本約70冊の計約110点という圧倒的スケールで“東西・夢の共演”が実現
北斎の名作と、それに衝撃を受けたモネやドガなど西洋の印象派芸術家の作品を合わせて展示。

初日のこの日は、雨にもかかわらず、開館前には長い行列ができて、建物の周りを囲んでいました。
会場内も大混雑。運慶展の大きな彫刻をぐるりと回ってみてきた直後なだけに、初めのうちは小作品の多さにとまどいます。

西洋の作品と北斎作品を比較展示しており、同時に見比べることが可能。
完全に影響を受けているとわかるものだけでなく、(うーん、どこが?)と謎の残るものもたくさんあります。
観客は、並べられた二つの作品を見比べながら、じっくりと鑑賞していきますが、膨大な展示数のため、かなりの集中力と体力が必要とされます。

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展示構成は「北斎の浸透」「北斎と人物」「北斎と動物」「北斎と植物」「北斎と風景」、そして「波と富士」の6章。テーマごとに展示室の壁の色が異なっています。
あまりに膨大なので、チラシの項目に沿ってまとめます。

1.「北斎の浸透」

葛飾北斎は、歌川広重と並ぶ浮世絵の名手。よく知られる「冨嶽三十六景」の他にも狂歌本や読本挿絵、『北斎漫画』などの絵手本の版本、錦絵版画、肉筆画などを手がけ、浮世絵における風景画のジャンルを確立させました。

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● セザンヌが気付いたモティーフ

セザンヌは地元南仏のサント=ヴィクトワール山を異なる視点から捉えた44点の油画と43点の水彩画に残しています。
これは、北斎の『冨嶽三十六景』で、彼が富士山という同一モチーフを様々な場所や角度から繰り返し描いた「連作」という手法を学び、応用したものだそうです。

実際にサント=ヴィクトワールを見たことはありますが、形も雰囲気も、富士山ほど魅力的には思えませんでしたが、絵画集となると、無骨な山にも様々な表情が見られるようになります。
連作手法に気が付いたことそのものが、大きな変革だったのでしょう。

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葛飾北斎《冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二》天保元−2年(1830-31)頃
錦絵 オーストリア応用美術館


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ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1886-87年 油彩
フィリップス・コレクション(ワシントンD.C.)


まだ連作というものが無かった頃、ポスト印象派の画家アンリ・リヴィエールも、北斎の『富嶽三十六景』にちなんで作られた『エッフェル塔三十六景』を発表しています。

2.「北斎と人物」

● ドガを刺激したポーズ

ふんどし姿の男性が、バレリーナのポーズ及ぼす 可憐なバレリーナとふんどしのおじさんを比較 力士でもなかった
「踊り子の画家」と呼ばれたドガは、かわいらしいバレリーナを描いた作品を多数残していますが、それらが北斎の半裸の男に影響を受けたものだったとは!
あまりの意外さに驚きました。なかなかシュールです。

北斎漫画に描かれた力士のようなふんどし姿の男が紹介されています。
たしかにポージングは似ていますが。模倣ではなく影響ということだからでしょう。

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葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分)刊年不詳 浦上蒼穹堂


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エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》1894年
吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)


● カサットが愛した、気ままさ

貴族絵が主流の西洋美術では、富裕層の人物は行儀の良いポーズを取ってきました。
少女がだるそうなポーズを取っているは、『北斎漫画』の影響だとか。
このニコニコ顔の布袋さんがベースにあったとは。
逆に、そうした浮世絵の自由さに馴染んでいる私たちには、特に驚くような構図ではありませんが、西洋の画壇では、この絵の登場はかなりセンセーショナルだったんでしょう。

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葛飾北斎『北斎漫画』初編(部分)文化11(1814)年 浦上蒼穹堂


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メアリー・カサット《青い肘掛け椅子に座る少女》1878年 油彩
ワシントン・ナショナル・ギャラリー


3.「北斎と動物」

● ゴーガンが描いた、シンプルさ

ゴーガンは浮世絵に興味を持っていたとされます。
彼の油彩画には、北斎が描いた子犬と同じようにコロコロとした、平面的な子犬が登場します。

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葛飾北斎 『三体画譜』(部分) 文化13(1816)年 浦上蒼穹堂


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ポール・ゴーガン《三匹の子犬のいる静物》1888年 油彩 ニューヨーク近代美術館


このコーナーには絵画作品だけでなく、装飾工芸品も展示されていました。
ガレやドームの、昆虫や植物が描かれたガラス器も。

西洋美術の動物画は狩猟画から派生したもので、日本美術の花鳥画のように自然を愛でる要素は、元々ありませんでした。北斎絵画が大きなきっかけになったのです。

4.「北斎と植物」

● ゴッホを魅了した自然

西洋絵画の静物画には活けられた花がよく登場しますが、静物画として描かれる植物は、自然から切り離されたものでした。
実際に生きている野生の植物が絵画のテーマになったのは、北斎の影響を受けてから。
近景と遠景が見事に組み合わされています。

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葛飾北斎《牡丹に蝶》 天保2-4年(1831-33)頃 錦絵 ミネアポリス美術館


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フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 油彩
国立西洋美術館(松方コレクション)


5.「北斎と風景」

● モネが学んだリズム

北斎の作品を所有していたというモネ。
この二つの絵を見比べると、木々のバランスや構図などに確かに影響を受けていることがわかります。

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葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷》天保元-2年(1830-31)頃 錦絵 ミネアポリス美術館


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クロード・モネ《陽を浴びるポプラ並木》1891年 油彩 国立西洋美術館(松方コレクション)


6.「波と富士」

● The Great Wave off Kanagawa

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葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(1830-33年)


『神奈川沖浪裏』(The Great Wave off Kanagawa)が世界に与えた衝撃と影響について。
音楽の教科書に、この絵に影響を受けたドビュッシーが作曲したと紹介されていたは組曲『海』の楽譜も展示されていました。

絵画だけではなく、陶器などにも描かれているこの大波の構図。
本展とは関係ありませんが、今年、英国で最も権威あるイラストレーションコンテスト「V&A Illustration Awards 2017」を受賞したのは、『神奈川沖浪裏』をモチーフとしてトランプ大統領の髪型を重ねた風刺画でした。

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A. Richard Allen『Trump Wave』


自然全般に必要以上の目を向けず、ある意味"自然に興味がなかった"西欧絵画にショックを与えたのは、北斎の描く自然画でした。
波のほかにも、北斎の雪や動物、植物に発想を得た作品群がずらりと並びます。

そのほかにも、ルドンのグロテスクな怪物絵と北斎のろくろ首の幽霊画が並んでいたり、北斎の春画がクリムトの絵画と並んでいたり、モチーフは森羅万象、多岐にわたります。

テーマごとの比較展示という構成で、北斎の海外への影響が視覚的によく分かりました。
よくぞ、これだけの作品を集めたものだと思います。
西洋作品には常設展の作品も多く、西洋美術館が印象派の作品を多く所蔵していることでこれだけの規模の比較が可能となったのでしょう。
馬渕明子館長の専門で、館長自らが企画したという、かなり力のこもった展覧会。
この時代の比較文化を学んでいた私は、知識としては知っていたものの、実際の作品を並べて比較できる機会に恵まれたことは非常なる僥倖です。

西洋のアーティストたちの日本美術への憧憬が、いろいろな形になって世に出ていったとわかる展示の数々。
決めごとが多く堅苦しい西洋画壇に新鮮な風を吹きこんだ北斎画は、西洋アート史にパラダイムシフトを引き起こし、今なお影響を与え続けています。

北斎から印象派へ。印象派から明治美術へ。
広がっていった裾野の広大さを考えると、やはり北斎は世界的アーティストだと、改めて実感できました。

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開催概要
会  期  2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
開  場  国立西洋美術館(東京 上野公園)展覧会サイト
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2017年10月23日

素心伝心―クローン文化財 失われた刻の再生

シルクロード特別企画展「素心伝心―クローン文化財 失われた刻の再生」
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東京芸術大学大学美術館

東京藝術大学では、文化財をクローンとして復元する特許技術を開発し、文化財の再現に取り組んでいます。
クローン文化財とは、オリジナルの精細な画像データに3D計測や3Dプリンターの技術を用いて科学分析を行い、空間・形状・素材・質感・色を忠実に再現しているもの。

今回は危機に面したシルクロード文化の代表的な遺産、
 ・2001年にテロによって破壊された、バーミヤン東大仏天井壁画
 ・持ち去られた後に第二次大戦の戦火で失われた、キジル石窟航海者窟壁画
 ・保存のために一般公開が困難な、敦煌莫高窟第57窟
 ・模写作業中に焼損した、法隆寺金堂壁画
などを、クローン文化財として展示しています。
どれもすでに失われていたり、実物を鑑賞することが難しい作品ばかりです。

作品の他に並河万里氏のシルクロードの写真が飾られ、映像や音、香りなど、五感でシルクロードの世界が体感できるようになっています。

● 法隆寺金堂の壁画と釈迦三尊像(日本)

入ってすぐの部屋は、壁画に囲まれた法隆寺金堂を再現した空間。
声明が流れ、中央に法隆寺のご本尊・[国宝]釈迦三尊像が展示されていました。

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釈迦三尊像は現存していますが、法隆寺の金堂は1949年に焼損し、12面の壁画は失われました。
それを在りし日の金堂空間に再現しています。

「これらはクローン文化財です。レプリカではありません」と解説の人。
再現率の高さがレプリカとは違います。

● 高句麗古墳群江西大墓の壁画(北朝鮮)

[世界遺産]高句麗古墳群の江西大墓玄室には、高松塚古墳やキトラ古墳に描かれた四神図の源流とも称される壁画が描かれています。

高句麗は現在の北朝鮮で、政治的な関係から訪れることはできない国。
また、白い花崗岩の上に直接描かれているため、取り外して保管できず、劣化が進んでいるそうです。
復元した石室の中に入ってみると、4方向の壁に描かれた四神図。
日本の四神壁画よりも大きく描かれていました。

● 敦煌莫高窟第57窟の壁画と仏像(中国・甘粛省)

原寸大で再現された第57窟には、「東洋のヴィーナス」と言われる優美な仏像が微笑んでいました。

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美しく気高いそのたたずまいは、完全に異空間。
苦労をして敦煌まで行った所で、観ることはできません。
臨場感とともに味わえる、貴重な体験です。

● キジル石窟航海者窟の壁画(中国・新疆ウイグル自治区)

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航海者窟と言われる第212窟。
「ドイツ探検隊によってはぎとられベルリンに持ち去られた」という書き方に無念さを感じます。

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中国からドイツに持ち込まれた壁画は、ベルリン大空襲で消失してしまったとのこと。
中国としては納得がいかないところでしょう。

● バーミヤン東大仏天井壁画(アフガニスタン)

2001年にテロによって破壊されたアフガニスタン・バーミヤン遺跡。
仏像破壊時の爆風で、「天翔る太陽神」という天井壁画も失われてしまいました。
ここでは、採光なども現地と同じ状態にして、光によって浮かび上がる絵の様子を再現しています。

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中央に描かれた太陽神は、ゾロアスター教の神と言われています。
頭上には風神、足下には天使がおり、馬などもいるのはギリシャの影響。
インドやペルシャ、ギリシャといった東西の宗教が融合した、数少ないものだそう。
遺跡付近はいまだに危険区域で、調査も進められない状態ですが、会場内には復元された臨場空間が広がります。

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展示された仏頭やガンダーラ彫刻は、八ヶ岳高原にある平山郁夫シルクロード美術館のコレクションがメイン。
平山郁夫氏は保護のために、自費を投じて危険地帯にある文化財を集め、日本に持ち帰っています。

他に、ペンジケント遺跡発掘区6広間1の壁画(タジキスタン)とバガン遺跡の壁画(ミャンマー)がありました。

● さわれる文化財(クローン文化財)
バーミヤン石窟K洞ヴォールト部分 アフガニスタン流出文化財 壁画 仏座像

写真撮影可だけでなく、触っていいものもありました。
太っ腹!壁画の破片を手に取ってみると、ずっしりとした重みが伝わります。

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嗜好品ではない、リアルな文化財との触れ合い。
実際に触れることによるアート体験は大きく、それはクローン文化財だからこそ可能となっています。

あと数十年でしか保存できないようなものでも、クローンにすれば後世まで残せる芸術となります。
クローン文化財の今後の一層の浸透が期待されます。

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この日はちょうど東京藝大130周年のお茶会が開催されており、優美な着物姿の人が大勢会場に流れてきて、鑑賞していました。

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大学内のカフェテリアで、お茶にしました。
(展覧会は10月26日まで)
posted by リカ at 17:31| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2017年07月12日

「レオナルド×ミケランジェロ展」ブロガー特別内覧会

28.jpg7月11日 at 三菱一号館美術館
by 岩瀬 慧(展覧会担当学芸員)、
「青い日記帳」主宰 Tak氏

三菱一号館美術館でこの日より開催が始まった「レオナルド×ミケランジェロ展」。
イタリアルネサンス期の巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 1452年 - 1519年)と、ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni 1475年 - 1564年)。この2人の芸術家を比較した展覧会になっています。

見どころは素描(ディゼーニョ=デッサン)。
2人のデッサンを「顔貌」「絵画と彫刻のパラゴーネ」「馬」「万物への関心」「書翰、詩歌」といったテーマ別に対比させた展覧会は、日本では初の試みとなります。

担当学芸員の岩瀬慧氏と美術ブログ「青い日記帳」のTak氏に、美術館館長も加わっての説明会となりました。

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展覧会の構成は以下の通りです。

   序章:レオナルドとミケランジェローそして素描の力
    1:顔貌表現
    2:絵画と彫刻:パラゴーネ
    3:人体表現
    4:馬と建築
    5:レダと白鳥
    6:手稿と手紙
   終章:肖像画

注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

1:顔貌表現

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レオナルド・ダ・ヴィンチ『自画像』(ファクシミリ版)
1515-1517年頃 トリノ、王立図書館


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マルチェッロ・ヴェヌスティ(帰属)『ミケランジェロの肖像』
1535年以降 フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ


15年ぶりに《レダと白鳥》の絵画制作に取り掛かることとなったミケランジェロは、かなり気合いが入っており、丁寧な素描を残しています。
かし、骨格が男性っぽいため、この絵のモデルとなったモデルは男性と判明。
女性らしく見せるためにまつげを長く書き込んでいるそうです。

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ミケランジェロ・ブオナローティ『《レダと白鳥》の頭部のための習作』
1530年頃 フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ


レオナルドは左利きで、左上から右下へのハッチング(細かい線を引くこと)が多い反面、ミケランジェロは右利きで、クロスハッチング(斜線を交差させる描き方)をしています。この線は、素描だからこそ分かるものになっています。

2:絵画と彫刻:パラゴーネ

ルネサンス期、絵画と彫刻のどちらが優れているかを問うパラゴーネ(比較芸術論争)が起こります。
レオナルドは、絵画が二次元の平面に立体感や奥行きを作り出すため優勢だと主張しました。

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レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく『聖アンナと聖母子』
1501-1520年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館


ルーブル美術館所蔵の本人による同名の作品とかなりそっくりに描かれたもの。
背景が少し異なる程度です。

同じ赤ん坊を90度回転した角度から描いたデッサンが、2枚並んで展示されていました。
ダ・ヴィンチの作品を手本として学んだ弟子の作品です。
当時の画家は、弟子を抱えた工房で作品を制作しており、師匠が描いたデッサンを弟子が鍛錬のために模写することが、日常的に行われていました。

5:レダと白鳥

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(右)フランチェスコ・ブリーナ(帰属)『レダと白鳥(失われたミケランジェロ作品に基づく)』1575年頃 フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ

(左)レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく『レダと白鳥』1505-1510年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

「○○に基づく」と書かれているのは、○○のオリジナルを元にして、別の人物が描いた作品ということです。
どちらの作品も、既にオリジナルは存在しませんが、弟子が参考にしながら描いた作品が残されています。

『レダと白鳥』は白鳥と乙女がモチーフとなった美しい作品ですが、画像右側のミケランジェロ作品に基づいた方は、姫ががっしりした体型をしているため、多少違和感を感じます。
これは、男性モデルを使ったからだそう。
逆に、画像左側のレオナルド作品に基づいた方は、白鳥がかなり男性的に描かれています。
並べて鑑賞してみると、好対照の描かれ方となっている2作品でした。

6:手稿と手紙

レオナルド・ダ・ヴィンチは、なんでもできるマルチな天才だと思っていましたが、「無学の人間」と自らを語っていたと知って、驚きました。
彼は鏡文字などを駆使していながら、ギリシア語・古代ローマ語ができないことから、そう言って「無学」のコンプレックスを抱えていたそうです。
どんな天才にも、悩みはあるものですね。
『トリヴルツィオ手稿』の第30紙葉表「語彙の一覧、男性の横顔」は、びっしりと言葉が書き込まれたノートで、受験生の単語ノートを連想させるものでした。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ『解剖手稿』(ファクシミリ版)第198紙葉表「子宮内部と胎児の研究」1511-1513年頃 [ウィンザー城王立図書館]

その横に、細かく正確な子宮内部の胎児図が描かれたノートが陳列されており、その詳細なデッサンに見入り、しばし前から動けませんでした。

終章:肖像画

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ミケランジェロ・ブオナローティ『十字架を持つキリスト(ジュスティニアーニのキリスト)』1514-1516年(未完作品、17世紀の彫刻家の手で完成)
バッサーノ・ロマーノ、サン・ヴィンチェンツォ修道院付属聖堂

今回の展覧会では、通常1階のスーベニアコーナーになっている部屋に、大理石でできた2500(キリスト像だけで2010)mmもの大きな銅像が、展示されていました。
この美術館では、スーベニアコーナーも展示室として使えるように作られているそうです。

このキリスト像は、近年になってミケランジェロ作品だだと認められたものです。
作成依頼を受けて大理石を彫り進めていくうちに、顔の左側に黒い傷が出てきたため、ミケランジェロが作成を放棄したもの。次に作られた第2バージョンは、教会に据えられており、これはその知られざる第1バージョンになります。

「全裸のキリストというのがとにかく珍しい」と館長。確かに、これまで見たことはありません。
通常は禁止事項の中に入るものですが、巨匠・ミケランジェロだから作成できた古代キリスト像。
キリストとアポロ像の合体として作られた古代彫刻となっています。

ミケランジェロが放棄したことで未完成だったこの像に、別の彫刻家が手を入れて、17世紀には完成形を取っていたとのこと。数奇な運命をたどり、今回遠い日本までやってきました。
こちらの像は撮影可。360度周って、全ての角度から彼の彫刻の力強さを確認できます。

このキリストは、「コントラボスト」という左足に重心を置き、右足を浮かせた状態をとっています。
どこか女性風でもあるこの立ち方は、銅像によく見られますが、私はボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』を連想しました。

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ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」
1485年 フィレンツエ ウフィッツイ美術館
参考画像:今展覧会には出展されていません


23歳離れていたとはいえ、「宿命のライバル」と言われ、互いを強く意識していた二人。
静的で分析的な作品を残した科学者肌のレオナルドと、動的で生き生きとした作品を残したミケランジェロの作風は、似ているようでやはりそれぞれ異なっており、今回は両者を比較できるいい機会となっています。


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左は"最も美しい素描"といわれるレオナルド『少女の頭部/「岩窟の聖母」の天使のための習作』


「レオナルド×ミケランジェロ展」[公式サイト]
会期:2017年6月17日(土)~9月24日(日)
休館日:月曜休館(祝日は開館)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2) 
posted by リカ at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする