2018年05月21日

プーシキン美術館展-旅するフランス風景画

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ここのところ「旅する○○」という言葉をよく目にするようになった気がします。
以前「旅するルイ・ヴィトン」展を観に行ったし、先日のNHKドキュメント72時間は「旅する美容室」でした。
今回も「旅」をキーワードに構成された展覧会です。

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■ プーシキン美術館について
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ロシアといえば、何日かけても観きれないと言われるエルミタージュ美術館の存在が何より大きいですが、ほかにもプーシキン美術館やトレチャコフ美術館といった珠玉の美術館が存在しています。
今回は、プーシキン美術館所蔵のフランス絵画展。

現在の名称に変わる前は、モスクワ大学の付属美術館でしたが、もっと前は革命前のモスクワで財をなした裕福な資本家、セルゲイ・シチューキンとイワン・モロゾフの2人のコレクターが19世紀末から20世紀初頭に収集したコレクションでした。
それがロシア革命を経て国家に摂取され、国営のものとなったわけです。
エルミタージュはエカチェリーナ二世が国家権力を使って収集しましたが、こちらは一般人の目利きで集められた作品群。対照的です。

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■ 風景画とは
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かつて王侯貴族の依頼で描かれた絵画は、神話や聖書のモチーフが作品題材のメインで、風景はその背景を飾る添え物の程度でしかありませんでした。
風景を主として描いた風景画は、17世紀のネーデルラント地方で市民階級が豊かになったことから始まり、フランスに導入されます。
それまでは理想的な、非現実的な風景が描かれてきましたが、19世紀に自然主義のバルビゾン派が生活に根差したありのままの自然を描き始めました。

今回は、17世紀から20世紀の風景画65点。17世紀半ばから20世紀初頭のフランス風景画にテーマを絞っています。
時代と場所別に、芸術家の手掛ける風景画の表現の変遷が分かる仕組み。
数はそれほど多くありませんが、物足りなさはありません。

全6章編成。各構成は以下の通りです。
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■ 第1章 近代風景画の源流
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王宮の華やかな文化に裏打ちされた17~18世紀の作品から、風景画の旅が始まります。

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クロード・ロラン《エウロペの掠奪》1655年


17世紀のフランス画家、クロード・ロランの作品。白い牡牛に姿を変えたゼウスが王女エウロペを連れ去る光景の直前の様子です。
神話の世界を抒情的に描きながらも風景の割合がだんだん大きくなり、人物の背後に広がる海の方が印象的な構図になっている点が、前世紀の神話画とは違うところです。

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■ 第2章 自然への賛美
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フランスで風景画がジャンルを確立したのは、フランス革命後の18世紀だそう。
19世紀に入ると、理想的に描かれた風景は、身近ななにげない自然を描いたバルビゾン派の風景画が人気となります。

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ギュスターヴ・クールベ《山の小屋》1874年ごろ


風景しか描かれていない風景画。
冷たさを感じる重々しい人物像が印象的なクールベですが、雄大なアルプス山脈を背にした山小屋が描かれたこの作品には、自然の中での人のつつましい生活を連想させる素朴な暖かさが感じられます。

1870年のパリ・コミューンに参加した彼は、逮捕され、その後1873年にスイスに亡命しました。
その1年後に亡命先で描いた作品です。

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■ 第3章 大都市パリの風景画
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風景画といっても、自然を描いたものばかりを指すわけではありません。大都会も立派な風景の一つです。
19世紀の半ば(1853-90)に実施された「パリ大改造」で、街並みが大きく変わりました。
19世紀半ばにはイルミネーションが灯されて、夜も明るくなったパリ。
印象派の画家たちは、近代都市となったパリの風景を描いています。

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ルノワール《庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰》1876年


モンマルトルの「ムーラン○○」というお店はどれも、夜に踊り子たちがフレンチカンカンをステージで踊るキャバレーだと思っていましたが、この作品に描かれているのは日中の日差しを浴びている健康的な男女たち。イメージがずいぶん違います。
「ムーラン・ルージュ」はキャバレーですが、こちらは大衆ダンスホールだそう。
おそらくどちらも、風車小屋(ムーラン)から始まったのでしょう。

後姿のストライプの女性の後ろにいるのはルノワール自身とされています。
ルノワールはのかにも『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』(オルセー美術館蔵)を描いており、ロートレックやユトリロも、この場所を題材にした作品を残しています。

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■ 第4章 パリ近郊―身近な自然へのまなざし
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19世紀後半には中産階級の暮らしが豊かになり、鉄道網の発達で、休日にはパリ郊外に出かけて余暇を楽しむようになりました。
また、携帯しやすいチューブ絵具が普及すると、印象派の画家たちが戸外で絵画制作をするようになった時期でもありました。

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クロード・モネ《草上の昼食》1866年


今回初来日した《草上の昼食》は、印象派の画家になる前の26歳のモネが描いた初期作品。
マネの《草上の昼食》に刺激を受けて着手した同名の作品ですが、構図は似ていても、物議を呼んだマネの作品とは違い、全員服を着ていて自然です。

縦1.8m x 横1.8mの大作で、パリ郊外、フォンテーヌブローの森でのピクニックの光景。
ピクニックといっても、今の私たちとは違って、人々は豪奢に着飾り、贅沢にご馳走を広げています。
これが当時流行した休日の過ごし方だったのでしょう。

描かれた光に、印象派のきざしが見えていますが、まず目を奪われるのはドレスの豊かなドレープの美しさ。
描かれた女性のモデルは全て、後に妻となるカミーユだと言われています。

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クロード・モネ《白い睡蓮》1899年


生涯200点もの睡蓮を描いた作品を残したモネの、初期の作品。
パリ郊外ジヴェルニーの彼の屋敷に作った庭園で描いたものです。
計算されて作られた庭園という自然の中の人工さが、縦と横、カーブや丸の配置で表されているようです。

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■ 第5章 南へ―新たな光と風景
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ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め》1905年


プロヴァンス生まれのセザンヌは、サント=ヴィクトワール山を生涯30枚以上描きました。
本展では、1885年完成の《サント=ヴィクトワール山の平野、ヴァルクロからの眺め》と、その20年後に描かれたこの作品が並べられており、見比べられます。
個性的になってきた風景画。色を多用したキュビスム的な抽象画。

彼の《ポントワーズの道》も展示されています。
こちらは生まれ故郷南仏とは違う、フランス中央部、イル=ド=フランスの曇り空と濃い緑の風景画になっています。

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■ 第6章 海を渡って/想像の世界
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1867年のパリ万国博覧会ではさまざまな異国の文化が展示され、メディアの発達で世界の情報を知る時代がやってきました。
最後の章は、作品ごとの展示コーナーを作り、それぞれの絵が醸し出す世界観を浮かび上がらせています。

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ポール・ゴーギャン《マタモエ、孔雀のいる風景》1892年


ゴーギャンはパリから離れ、南太平洋のタヒチ島で原始的な暮らししながら制作に没頭します。
「死」という意味のこの作品は、奥行きの深さと華やかな色彩に圧倒されます。
あまり死は連想されませんが、生と同様に死も鮮やかなものだという解釈でしょうか。
あるいは、ここには西洋文明は全く存在しないという意味でしょうか。

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アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》1910年


ゴーギャンとは逆に、生涯フランスを一歩も出ることがなかったルソーは、植物園や図録をもとに、想像で熱帯のジャングルを描きました。

パリの都会人がジャングルを想像して描いた作品は、日光東照宮の想像の象のように近い感覚でしょうか。
リアルがないために、動きや感情が見えない、どこかファンシーで夢物語風の印象。やはり本当のジャングルを知らないパリ人に、逆に受け入れやすかったのかもしれません。

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■ 観終わって
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風景画は、ただ風景を描いただけのものではなかったんですね。
神話の背景から始まって、郊外の自然やパリの都市風景や南フランスの田園、そして世界の風景に視点が映っていった400年間の「旅する」フランス風景画の変遷を堪能できました。

先日の「ヌード展」(横浜美術館)では、西洋画が日本画に比べてはるかにヌードに強烈な興味を持ち続けていたことを実感しましたが、風景画は、中国からの水墨画の影響もあり、日本画で長い伝統があるジャンル。
風景が主体となる絵画が続いてきた文化で、西洋画のように時代がすすむにつれて風景がメインテーマになっていく変遷はないため、そうした違いを興味深く思いました。

プーシキン美術館展-旅するフランス風景画
2018年4月14日(土)~7月8日(日)
東京都美術館

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2018年05月07日

ヌード NUDE −英国テート・コレクションより

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全出品作がヌードという、フルヌード展覧会。
思い切った企画ですが、ヌードは人間の永遠の興味の元ですから、話題を呼んで、かなりの観客動員数になることと思います。
昨年の上野の森美術館の『怖い絵展』しかり、テーマをぐっと絞ったものは、人が好みに合わせて足を運びやすいものですね。

予想通りに来場者が多く、大人気。
ほかの展覧会に比べて男性比率が多いように感じますが、女性客もかなりいます。 
なにより、単身で鑑賞している人の割合が高いように思えました。
夫婦らしきカップルの姿はありましたが、恋人との普通のデートで行ったら、集中できなさそう。
このご時世に合った、お一人様向きの企画ともいえます。

ちなみに、私は母と行きました。
親子で鑑賞するのは、デート並みにハードルが高いかもしれません。
ヌードのオンパレードに、母は圧倒され、困惑したようですが、ここまで徹底していると目が慣れて、羞恥心は薄れます。

ヌード特集といっても、人の素の美しさ、奥深さを表現している芸術的な展覧会。
女性の身体だけではなく、男性像も多く展示されています。
134点の展示品できちんと時代を追い、1790年代から現代までの約200年の間の、西洋美術における裸体表現法の歴史的変遷がわかるように構成されています。

構成は全8章。
第1章は歴史画が中心の「物語とヌード」
第2章は室内作品を集めた「親密な眼や神話画」
第3章は造形や色彩の新しい表現「モダン・ヌード」
第4章はエロスを連想させる「エロティック・ヌード」
第5章は20世紀前半の新しい芸術運動「レアリスムとシュルレアリスム」
第6章は描き方の表現を比較した「肉体を捉える筆触」
第7章は性や人種をテーマとした「身体の政治性」
第8章は1980年代以降の作品となる「儚き身体」。

● フレデリック・トレイン《プシュケの水浴》1890

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倫理的な風潮が強く、ヌードはご法度だったものの、物語や歴史のテーマなら裸体を描けた19世紀ヴィクトリア朝時代。
ヴィクトリア画の特徴である、きめ細かく大理石のように白い肌で描かれたヒロインの美しさが際立っています。

● ジョン・エヴェレット・ミレイ《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》1870

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ラファエル前派の表現。初めは騎士と女性が向き合う構図だったのが、卑猥だと言われて女性の向きを変えたのだそう。
かつての裸体画は、神話をベースにした神々しさを表現する描き方のみが認められており、この絵は生々しいと批判を受けたそうです。

● ハーバート・ドレイバー《イカロス哀悼》 1898

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いかにもラファエル前派らしい作品。イカロスの羽は立ったら引きずってしまうほどの大きく広がっています。
羽毛の中に呑み込まれそうな姿に、アニメ「ミクロイドS」を連想しました。
心配していると思われた3人のニンフは、青年の身体を凝視しているとのこと。そう言われれば、そうも見えますが…?

● エドガー・ドガ《浴槽の女性》1883

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「我らは鍵穴から女性を覗き見ているのだ」というスタンスで、対象に非常に近い目線を持つドガ。
ただ神話に描かれる理想的な裸体をよしとする風潮は、自然な裸体を描いたものは売春婦だとみなしたとのこと。まだまだヌードに厳しい時代です。

● ルノワール《ソファに横たわる裸婦》1915

新国立美術館で見た《可愛いイレーヌ》とはずいぶん違うタッチ。
こちらの自然な描かれ方を見ると、あちらは依頼主向けにかなり気を遣って描いたのだなあと改めて感じます。

● ジャコメッティ《歩く女性》1932-36

彼の作品らしい、引き伸ばされたように長くて薄い人体像。
もとは頭も腕もあったのが、作成途中で作家が取ってしまったそう。
そのために不自然なほどの細さと無個性がより際立つものになっています。

● ピカソ《首飾りをした裸婦》1968

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二度目の妻がモデルだそうですが、ピカソのモデルは、自分が描かれたものだとは実感できないでしょうね。
解説によって、マネの《オランピア》を参照にした作品だと知りました。

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【参考:本展非展示】マネ《オランピア》(1863)

ちなみにこちらが、上記ピカソ作品のもととなった作品。
さらにマネの《オランピア》は、ティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》の影響から描かれた作品。

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【参考:本展非展示】ティツィアーノ《ウルビーノのヴィーナス》1538

ウルビーノのヴィーナスからオランピア、そして首飾りをした裸婦へ。
3つの作品に、時代別のヌードの変遷が見られます。

● ロダン《接吻》1901-4

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唯一撮影可の作品。大理石の巨大な銅像で、3.8トンあるそう。
360度ぐるりと鑑賞でき、人はめいめいのポイントから撮影していました。

はじめは地獄の門の一つのモチーフとして作り始めたものだったのが、生の喜びあふれるものなので、独立したものにしたのだそう。
確かに地獄は死の国にありますから、伝える感情は真逆のものになってしまいますね。

時代が近づくに従って、どんどんヌードは卑近な、猥褻さを伴うものとなってきます。このテーマでのターナー作品を見るとは思いませんでした。ホックニーのゲイのカップルの挿絵など、同性の恋人を描いたもの、メイプルソープによる写真も展示されています。

さらに近代に進むにつれ、一層混迷を極めるヌード表現。
裸という一番原始的な姿から、あるがままの表現を越えた、不安と孤独に覆われる作品群が並びます。

● フィオナ・バナー《吐き出されたヌード》2007

今世紀に入ると人の形は失われ、言葉を羅列した表現に置き換えられていました。
書き出された言葉を読んでいくと、人の脳裏にヌードが鮮明に思い描かれるという効果でしょう。
これが最終形態なのでしょうか。今後はどんな表現でヌードは描かれていくのでしょうか。

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特別展を鑑賞した後、常設展も観ました。
貴重な宮川香山の眞葛焼コレクションが5点ありました。
また、先程のミレイの作品を、英国留学中の下村観山が模写した作品が展示されていました。

● 下村観山《ナイト・エラント》1904

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オリジナルを観たばかりなので、感激。
テート・コレクション集なので一緒に展示しなかったのでしょうけれど、参考作品として隣に並べても良かったのでは?と思います。
あまりにさり気なく飾られているため、特別展のみを観て帰り、こちらの作品を見逃した人は多そう。
これから行かれる方は、ぜひ常設展の方もお見逃しなく。

「ヌード NUDE −英国テート・コレクションより」
2018年3月24日(土)~6月24日(日)
横浜美術館
posted by リカ at 17:40| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2018年04月18日

至上の印象派展 ビュールレ・コレクション

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ちらしは2種類。下はセザンヌの《赤いチョッキの少年》1888-90年


2月から開催中のビュールレ・コレクションを観てきました。
スイスの絵画収集家ビュールレ(1890-1956年)による600点におよぶ美術コレクションは、幅広い時代の作品が収集され、とりわけ印象派・ポスト印象派の作品は質が高い傑作揃いと高く評価されています。
ビュールレ・コレクションの全作品は、2020年にチューリヒ美術館に移管されることとなっています。

今回の展示作品は64点。それほど多くありませんが、日本人に人気の高い印象派、ポスト印象派が中心の観がいがある作品ばかり。
モネ、マネ、ルノワール、ドガ、ファン・ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌという、そうそうたる画家の作品ぞろいです。
また、出展作品の約半数が日本初公開となります。

10年前の2008年、ビュールレ美術館から絵画4点が盗まれ、世界の美術ファンが騒然としました。
そのセザンヌ《赤いチョッキの少年》、ファン・ゴッホの《花咲くマロニエの枝》、ドガの《リュドヴィック・ルピック伯爵とその娘たち》、モネの《ヴェトゥイユ近郊のケシ畑》は、すべて無事に回収され、今回の展示品となっています。

1. 肖像画 2. ヨーロッパの都市 3. 19世紀のフランス絵画
4. 印象派の風景ーマネ、モネ、ピサロ、シスレー
5. 印象派の人物ードガとルノワール 6. ポール・セザンヌ
7. フィンセント・ファン・ゴッホ 8. 20世紀初頭のフランス絵画
9.モダン・アート 10. 新たなる絵画の地平

という10の章で構成されています。
作品は全て、チューリヒのE.G.ビュールレ・コレクション財団蔵。

休日に行ったこともあり、会場はとても混んでいます。
場所柄か、外国人ファミリーの姿も多く見かけました。

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ポール・セザンヌ 《風景》 1879年頃


セザンヌ作品は6点。油彩画ですが、水彩画のような爽やかさがあります。
近くに行ってその筆致を確かめました。

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クロード・モネ 《ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑》1879年


モネ作品は4点。中でもこのヒナゲシの色に、目を奪われました。
曇天と対照的なヒナゲシの赤。華やかですがどぎつくはない、モネらしい色使いです。
両手いっぱいに花を摘んでいるのは、モネの家族でしょうか。
この作品は、ビュールレが印象派絵画に魅了されるきっかけとなった一枚だそうです。

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エドゥアール・マネ 《ベルヴュの庭の隅》 1880年


マネ作品も4点。モネにタッチが似た作品です。
センセーショナルな「草上の昼食」や「オランピア」で物議を醸した彼も、モネたちとの交流をへて、この頃には印象派的な自然の描写を取り入れています。

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ピエール=オーギュスト・ルノワール 《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢
(可愛いイレーヌ)》 1880年


絵画史上で最も有名な少女像と言われるこの作品。
今回の展覧会の要の一枚でもあり、混んだ会場内でも、この絵画の前は、ひときわ大きな黒山の人だかりができていました。
この絵の前は特に、前の人の背が高くて見えにくかったのは、やはり男性ファンが多いからでしょうか。
ほかの絵を見ている時にも「俺、今日はイレーヌだけ観に来たんだけど、ほかの絵もいいね」と話す青年二人の会話が聞こえてきました。

優しげで頼りなげなまなざしに、豊かに肩に流れるつやつやとした髪、透き通るような肌。
吸い込まれそうで、見ているだけで幸せになるような少女像です。
モデルのイレーヌは、裕福な銀行家の娘でしたが、ユダヤ人だったため、その後ナチスによりつらい半生を送ることになりました。
この作品もナチスに没収され、そののち戻されるもイレーヌが手放したことで、ナチスに武器を売って財を成したビュールレの手に渡るという数奇な運命をたどっています。
この明るい絵が描かれた頃には、そうした複雑な運命が待っているとは誰も予想しなかったでしょう。
暗黒の時代の間も、誰かに破壊されることもなく、戦火の中でも無傷で作品が残り、今こうして日本で鑑賞できるということに、感動を覚えます。

描かれたイレーヌは8歳だと知って、なかなかの衝撃を受けました。
10代の少女だと思っていたら、そんな小さな女の子だったとは。
まあ、いろいろな情報を入れずとも、とにかく一見の価値ありです。

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フィンセント・ファン・ゴッホ 《花咲くマロニエの枝》 1890年


ゴッホ作品は6点。この作品は彼が療養院から退院した後に描かれた、晩年の作品。
静かで落ち着いた題材の中にも満開の花の生命力が感じられ、色のコントラストに目を奪われます。
英語で「Chestnut」と訳されており、外国人の男性が「マロニエは栗デスカ?」と連れの女性に聞いていました。「Marronnier」は「マロン」の仲間ですからね~。

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クロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》1920/1926年頃


最後のコーナーは、モネの睡蓮の絵。
高さ2メートル、幅4メートルの大作です。
オランジュリー美術館にある、壁に沿った長いモネの睡蓮の絵よりは小ぶりですが、この作品はこれまでスイス国外に一度も出たことがないという貴重な作品でした。

今回の展覧会のイレーヌ像を使ったコピー文句「絵画史上、最強の美少女(センター)」は、けっこう賛否両論ですね。
世界的な名作にアイドルチープ感がついてしまいそうですが、話題になったことで観客も増えたことでしょう。
ミュージアムショップには、可愛いイレーヌの格好をしたリカちゃん人形が売られていました。

たいていの人なら満足できるだろうこの展覧会。
GW中は混雑必至でしょうから、早めの鑑賞をお勧めします。
東京の後は九州、名古屋でも開催される予定です。

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至上の印象派展 ビュールレ・コレクション
東京・国立新美術館 2018.2/14(水)~5/7(月)
九州国立博物館 5/19(土)~7/16(月・祝)
名古屋市美術館 7/28(土)~9/24(月・祝)
posted by リカ at 17:41| Comment(2) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする