2016年07月05日

「メアリー・カサット展」夜間特別鑑賞会

IMG_6148.jpg


優しい愛に包まれた母と子の絵が特徴的な印象派のアメリカ人画家、メアリー・カサット(1844-1926)の作品展。
日本国内には所蔵が少なく、今回は実に35年ぶりの大回顧展になります。
カサットの人生の紹介とともに、初期から晩年にいたるまでの計100点の作品が展示されて要る今回の展覧会。
このたび、夜間観賞会に参加し、学芸員の方のギャラリートークを聴きながら作品を鑑賞できました。

* 写真は主催者の許可を得て撮影したものです。

〇 カサットの生き方
アメリカ人の裕福な家庭に育った彼女。父親が画家になることを反対したため、自分で旅費を稼いでフランスへ。留学目的でしたが、パリのエコール・デ・ボザール(国立美術学校)では当時女性を受け入れていなかったため、ルーブル美術館で模写をして技術を磨き、19世紀後半のパリの画壇にデビュー。
自分の夢に向かって歩み続ける、行動的な女性です。

母と子の愛情あふれる作品を多々残していながら、自身は生涯独身を貫いた彼女。
そのためか、男女を描いた作品はほとんどありません。
この展覧会でも、ゴヤにインスピレーションを受けたと言われる作品《バルコニーにて》1873年くらいです。
男性の肖像画もほぼなく、彼女のよき理解者だった兄の絵くらい。

フランスで学んだ印象派をアメリカに広めた貢献を称えられ、フランス政府からレジオン・ド・ヌール賞を受賞。
自分の力で努力して成功を勝ち取った、新しい時代の女性の姿がありました。

〇 女性画家の視点
生命感にあふれる彼女の人物画は、身近な人の肖像画が多く、とても親密な印象。
人物中心で、風景はあくまで人物の背景の役割でしかありません。

IMG_6151.jpg
左:《庭の子どもたち(乳母)》1878年 ヒューストン美術館蔵
右:《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

砂浜で夢中で遊ぶ子供たちが描かれていますが、海はあくまで脇役扱い。絵の中心は子供たちです。
この子供たちには、画家と数年前に亡くなった姉を重ね合わせて描いているのではないかと言われています。

IMG_6152.jpg
左:《扇を持つ婦人(アン・シャーロット・ガイヤール)》1880年 個人蔵
右:《桟敷席にて》1878年 ボストン美術館蔵


会場はコメディ・フランセーズでしょうか。黒い昼用ドレスでマチネを観に来た、オシャレな女性。
男性から見られていても、全く意に介していません。
見られる対象から見る対象へと変わる、近代女性の誕生を示唆したチャレンジングな作品で、カサットの宣言ともとれるとのことです。

IMG_6156.jpg
左:《ロバート・S・カサット夫人、画家の母》1889年 デ・ヤング・サンフランシスコ美術館蔵
中:《タペストリー・ファームに向かうリディア》1881年 フリント・インスティチュート・オブ・アーツ蔵
右:《眠たい子どもを沐浴させる母親》1880年 ロサンゼルス郡立美術館蔵

母、兄、姉の肖像画はそれぞれ別の美術館に所蔵されているため、ここで一家が勢ぞろいして画家も嬉しかろうというキュレーター。
右は、ルーベンスの母子像を彷彿とさせる構図でした。

IMG_6149.jpg
左:《果実をとろうとする子供》1893年 ヴァージニア美術館蔵
右:メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズ《そよ風》1895年 テラ・アメリカ美術基金蔵


シカゴ万博博覧会の壁画を手がけた二人。それ以降は新しい女性像が描かれるようになっていきます。
昔のエデンで知恵の実をアダムから分けてもらうイブとは違い、自ら果実をもぐこれからの女性像が描かれています。
量感があり、肉付きがいい健康そうな母子。地に根付いたようなどっしりした安定感があります。
それとは対照的に、マクモニーズの作品は軽やか。
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ風に描かれています。

〇 ドガとカサット
ドガの作品を観て感銘を受けたカサット。
ドガも彼女の才能を見抜き、1877年に彼女のアトリエを訪れて、印象派の仲間に入るように勧めました。
すでにサロン(官展)で評価されつつありましたが、息苦しさを感じていた彼女は、サロンと決別をして当時ほとんど知られていなかった印象派に転向。
自由な表現の解放を目指したそうです。

ドガは女嫌いで有名でしたが、カサットは例外だったとのこと。
知的で活動的な女性として彼女をとらえており、お互い感銘し合う間柄だったそうです。

IMG_6154.jpg
左:エドガー・ドガ《踊りの稽古場にて》1884年頃 ポーラ美術館蔵
右:エドガー・ドガ《踊りの稽古場にて》1895-98年 ブリヂストン美術館蔵


〇 同時代の女性画家たち
当時は女性の職業画家が少なかった時代。
彼女同様に社会に進出していた他の女性画家との交流もあり、仲が良かったそうです。
近代女性のパイオニアともいえる彼女たちは、認められるまでにたいへんな苦労と努力をしたでしょうが、展示された他の画家の作品も、そうした苦労を見せない、優しさに満ちたものばかりでした。

IMG_6155.jpg
左:マリー・ブラックモン《お茶の時間》1880年 プティ・パレ美術館蔵
中央:ベルト・モリゾ《バラ色の服の少女》1888年 東京富士美術館蔵
右:エヴァ・ゴンザレス《画家の妹ジャンヌ・ゴンザレスの肖像》1869-70年頃 個人蔵


〇 カサットが愛した日本美術
日本の浮世絵に引かれ、技法を取り入れた彼女。
歌麿などの浮世絵が展示されていました。
浮世絵の親密さと、ルネサンス期の聖母子像の普遍さが、カサットの母子像に現れていると言われています。

IMG_6158.jpg
左:《沐浴する女性》1890-91年 ブリンマー・カレッジ蔵
右:《母のキス》1890-91年 アメリカ議会図書館蔵

多色刷り銅版画の連作には、浮世絵の影響が見られます。
特に左の絵の女性を描くなめらかな線は明らかに浮世絵のラインを連想させるものでした。

IMG_6157.jpg
左:《夏の日》1894年 テラ・アメリカ美術基金蔵
右:《ボートに乗る母と子》1908年 アディソン美術館蔵


晩年は白内障を患った彼女。そのためにパステル画が増えました。
この展覧会では、自分の境遇に悲嘆せず、1926年に86歳で亡くなるまで、常に前に進み続けて好きな絵を描き続けていた彼女の生き方が紹介されています。
その強さが、彼女の作品に安定感を与えて、観る人を幸せで温かい気持ちにさせているのだろうと感じました。

【開催概要】
「メアリー・カサット展」
会場:横浜美術館(みなとみらい)
開催期間:2016年6月25日(土)-2016年9月11日(日)
開館時間:10:00-18:00  休館日:木曜日
posted by リカ at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2016年07月04日

国吉康雄展 Little Girl Run for Your Life

6eb.jpg
「国吉康雄展」そごう美術館


今回初めて知った画家。岡山出身で1906年に16歳でアメリカに渡った彼は、はじめは特に目的はなかったものの、苦労をして日銭を得ながら画学生となって絵を学び始めて職業にしたという、日本よりもアメリカでの美術の影響を受けた洋画家です。

全体的に暗い色合いの不気味な感じのする作品群。
子供には無邪気さや快活さはなく、大人びた表情をして、見ている側が不安になります。詳しくありませんが、これがアメリカモダニズムや幻想的表現主義なのでしょうか。

IMG_6133.JPG


明るい軽やかな色調の作品を描くマティスと友人と知って意外な気がしました。
『ピクニック』は、セザンヌっぽい色合いだと思いましたが、同行の母はルノワールに似ているとの感想。
印象派のルノワールの作風とセザンヌの色調、どちらの影響も受けています。

カメラ撮影も行っていた彼の展示物には、時折写真作品も混ざっており、注意深く見ないとどちらかよくわからない小品もあります。

アメリカの国籍はないものの、北米を代表する画家十数名の中に入るほどになり、アメリカでの地位を確固たるものにした彼。
第二次世界大戦中には敵国外国人という扱いを受けたものの、「アメリカ人画家」としてのアイデンティティを持っていた彼はアメリカで日本を批判する立場をとりつづけます。
戦時情報局(OWI)から対日プロパガンダの仕事を受けて作成した「日本側の残忍な拷問や虐殺」のシーンが描かれた反日ポスターのシリーズも展示されていました。
10点ほど並んでおり、これを描いたのが同じ日本人というのは、やはりショック。
恐ろしい顔をした鎧武者をモチーフにしたものや「SINK HIM」と描かれたものなど。
アメリカで生きていくことを選択したこその結果でしょう。

IMG_6132.JPG


西瓜(スイカ)の絵があり、普通に見ると単なるスイカですが、「アフリカ系の人を白人が指す言葉」だという解説がありました。
なにか人種問題の隠喩を伝えたかったのでしょうか。その点に関する解説はありませんでした。
戦争による反日感情をかき立てる役目を追っていながらも、あらゆる人種に当てはまるように見える描き方を心がけたということ。
彼の作品は、当時の時代の世相を強く受けていたのだと思えます。

望郷の念は起きなかったのか、反日ポスター以外で日本をモチーフにしたものは、このくらいしかありませんでした。

3b5.jpg
日本の張子の虎とがらくた 1932年


入り口を入ってすぐに『少女よ、お前の命のために走れ』という作品(ちらし上部)がありました。
巨大なバッタとカマキリが描かれ、その間に小さく少女の後姿が見えるという不可解な構図で、そこに描かれた少女が「私はなぜ画家に走るように促されたのか?」という疑問を持ちながら彼の作品を案内していくという展示スタイルになっていました。

その答え探しをしながら画家の人生を追っていくという手法はいいのですが、最後まで行っても答えは特に出なかったため、多少もやっとしました。
「答えは未来にある」ということで、まだ先に委ねられている模様。
彼の日本での評価はまだこれからということかもしれません。
posted by リカ at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2016年06月11日

フランスの風景 樹をめぐる物語

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、6月9日

00086198.jpg

シャルル=フランソワ・ドービニー『ヴァルモンドワの下草』(1872)


風景画ってきれいで、心が落ち着きますね。
印象派が好きな日本人は、比較的風景画も好きなのではないかと思います。
今回は、あるようでなかった、樹木をモティーフにした展覧会です。

もともと絵画は、歴史画の格が高く、風景は背景として添え物程度に描かれる程度でしたが、イギリスからコンスタブルなどによる風景画が取り込まれ、また産業の復興による都市の人口増加から、郊外への憧れが生まれるようになったのが、フランス風景画の流れのきっかけとされています。

第1章:戸外制作の画家たち

この時期の作品タイトルには、フォンテーヌブローとバルビゾンが時々見られます。
フォンテーヌブローの森の中にあるのが、画家たちが集まったバルビゾン村になります。

さりげなく、ジョルジュ・サンドの小品『池のある風景、樹木と山』が飾られていました。繊細な自然画でした。
ある作品のタイトルの中にあった「自然にならって(d'apres nature)」という言葉が、その後の仏近代絵画のテーマになっていったそうです。

コローは夏に屋外でスケッチし、冬にはそれを屋内で制作したとのこと。
理想的な生活ですね。

作品に描かれる樹木では、断然「樫」の木が多かったです。
フランスに多い木なのか、絵になるからなのかはわかりません。

アレクサンドル・ルネ・ヴェロンはピクチャレスクな構図を好んだ画家だそうで、展示品『ロワン川のヌムール橋』も確かに絵になる作品でした。

第2章:印象派の画家たちと同時代の風景画

430001_615.jpg

クロード・モネ『ヴェトゥイユの河岸からの眺め、ラヴァクール(夕暮れの効果)』(1880頃)


大きな油絵。この作品を手掛けた頃の彼は、妻カミーユが若くして亡くなり、パトロンが破産し、その妻子を彼が養っていたというとても大変な時期を過ごしていたそうです。
でも、そんなハードモードの人生を悟らせることのない、力強く生き生きとした作品に、彼の強さを見ました。

カミーユ・ピサロは有名な画家ですが、他に何人もピサロの名の画家の作品が展示されていました。
全て、彼の息子によるもの。リュシアンは長男、フェリックスは三男、そしてリュドヴィク=ロドは四男だそうです。
二男はわかりませんが、息子たちは父親のように、次々と画家になっていったんですね。しかしフェリックスは23歳の若さで亡くなったそうで、残された作品は貴重なものとなっています。

第3章:ポスト印象主義と20世紀前衛芸術への試み

これまでは、風景画イコール外に向かうもの、という認識だったものが、内に向かう対象として描かれるようになった頃。
象徴派やフォーヴィスムの作品が集められています。

18117.jpg

ケル=グザヴィエ・ルーセル『青い服の女性、サン=トロペ』(1905‐1910)

神話色のない今回の展覧会の中で、小品ながらも目立つ、ギリシア神話を思わせる一枚でした。

430007_615.jpg

フェリックス・ヴァロットン『オンフルールの眺め、朝』(1912)

ナビ派の画家である彼の作品展を昨年観に行ったものです。不自然なかたちの樹木が不安定さと不思議さを醸し出していました。

ほぼすべての作品に解説がついており、理解に役立ちました。
全体的に、他の展覧会よりも、地名のついたタイトルの作品が多いことに気がつきます
風景画だから、どうしてもそうなるのでしょう。

風景画は、やはり見ていて心落ち着くもの。
終わってみて、今回のテーマを思い起こすと、確かに樹木の絵ばかりでしたが、全く見飽きることもなく、ナチュラルに鑑賞することができました。

展覧会「フランスの風景 樹をめぐる物語」は、6月26日(日)まで公開中です。

posted by リカ at 21:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする