2020年01月09日

未来はすぐそこに~「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」



■ 会について


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森美術館

森アーツセンターギャラリーで開催中の「天空ノ鉄道物語」に向かう途中に、黒いカーテンで仕切られたコーナーがありました。
係員の人に誘導されて中に入ってみると、暗がりの中のスクリーンに映しだされていたのは、美空ひばり。

いえ、本人ではなく、限りなく本人に似た、AI美空ひばりです。
スクリーンに映し出された彼女が歌い始めたのは、秋元康作詞の新曲だそう。

正直、本人についてあまりよく知りませんが、それでも見間違えるほど瓜二つといえるほどのクオリティです。
(テクノロージーはここまで進んでいるのか...)と驚きましたが、ただ一点、歌唱中におなかが全く動いていないことが気になりました。
息を吸っていないのです。吸わなくても歌えるのですから。
何の息継ぎもなくすらすらと歌を紡ぐAI。
そのほかは、生きている人間そっくりだったので、腹部はあえて動かさず、ロボットらしさを残しているのかもしれません。
(このAI美空ひばり、年末の紅白にも登場しました)

そこから高層に上がって、メイン会場へ。
「未来と芸術」というタイトルのもと、AI、バイオ技術、ロボット工学、AR (拡張現実) といった最先端のテクノロジーと、その影響を受けて生まれたアートや建築、デザインを紹介しながら、これから人間はどう生きていくのか、また持続可能な都市にするにはどうしていったらいいのかを考えさせる展示会。
このタイトルも、IBMが開発したAIが作ったものだそうです。

■ 展覧会の構成

構成は5つに分かれます。
セクション1 都市の新たな可能性
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ
セクション3 ライフスタイルとデザインの革新
セクション4 身体の拡張と倫理
セクション5 変容する社会と人間

■ セクション1 都市の新たな可能性

目下建設中の、アブダビのマスダールシティや、海の上の都市、オーシャニクスシティの提案。
どちらも自然からエネルギーを産みだす未来都市計画。
また大気圏内に都市を作るという近未来提案もありました。

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■ セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ

ネオメタボリズム建築とは、生命の成長や変化のように、社会や人口に合わせて有機的に変化する都市や建築を指します。
火星に住居を作る計画もあるんですね。これが現実化する日が来るのかもしれないと思うと、ワクワクします。

また、シンガポールの「オアシアホテルダウンタウン」という建物の紹介もありました。
このホテルの緑化率は、1,100%だそう。驚くべき数値です。
光合成のできる微細藻類がブロックに埋め込まれた、エネルギーを生産できる建物もありました。

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《ムカルナスの変異》

「ムカルナスの変異」とは、イスラムの伝統的な幾何学模様「ムカルナス」を学習させたAIが生み出したデザイン。
人間では到底作図しえない、細緻に渡り複雑で精緻な作品になっています。

■ セクション3 ライフスタイルとデザインの革新

色が付いたカラフルなゴキブリが、お皿に載っていました。
「ポップローチ」というゴキブリの昆虫食。
未来は食糧難が待っていると言われます。
これまで、夢が広がる未来都市の紹介が続き、未来の人々がうらやましくも思えていましたが、ここでうっと思いとどまります。
ゴキブリは食べたくないなあ~。

3Dプリンター的な寿司製造機や、動物を殺生せず細胞から作った食用肉もありました。
ただ正直どれもおいしそうではありませんでしたが…。

■ セクション4 身体の拡張と倫理

乙武プロジェクトによる身体の拡張の問いかけ。
また、暗室のように暗い部屋に入ると、耳がありました。タンパク質の彫刻《シュガーベイブ》。
ゴッホの母系、父系の子孫のDNAを採取し、自画像を基に耳の形を形成した作品。
話しかけると、音が戻ってきます。

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《シュガーベイブ》

過去の人物の身体の一部が再現される世の中になったとは。
耳ですし、画家のゴッホのものということで、芸術のくくりで眺めることができますが、この再生医療技術はクローン技術に繋がるものなのではないかと思うと、背筋がぞくりとしました。

■ セクション5 変容する社会と人間

前のセクションが結構衝撃的で、かなり疲労していますが、ここはさらに生命誕生の秘密に踏み込んだものとなっていました。
ミトコンドリアDNA遺伝子の置換治療などを通して、親が3人以上いる子供ができるかもしれないという話。
将来は、家族の在り方などが改めて問われる時代になってくるのかもしれません。

一見突拍子もないプロジェクトながら、きちんとした前提条件に従って導き出されている提案の数々には、圧倒されるばかり。
すごいアイデアだと思いますが、地球温暖化や人口増加、それに伴う食糧不足など、近い未来に地球を覆う問題は非常に深刻です。

人類を待っているのはすてきな未来ではありません。過去から蓄積されてきた重い問題が山積みになっています。
そうした人類、もっといえば生物そして地球全体の危機ともいえる状況に、ひらめきとテクノロジーを駆使して対応していくという気概が感じられました。

人類の危機的状況が訪れないに越したことはありませんが、そうした危機管理の観点から、現実化の可能性のあるさまざまなプロジェクトが練られているということにただ驚くばかりです。
未来はもうすぐそこなんですね。

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考えさせられる展示会。
すっかり疲労困憊しましたが、それでもaiboやLOVOTたちと触れ合えて、楽しい時間を過ごせました。

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ミュージアムショップでは、AI美空ひばりの新曲のCDが売られていました!
あとは食用ゴキブリも。ほんとに売っているなんて―。
未来はすぐそこまで来ています!

■ 会期

森美術館

2019年11月05日

正倉院の宝物が東京で見られるチャンス!「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」

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■ 会について

聖武天皇・光明皇后ゆかりの品々が収められている、正倉院。
毎年秋に、奈良国立博物館の「正倉院展」で、所蔵品が公開されていますが、今回は、天皇陛下の御即位を記念し、特別展として東京の国立博物館でもお披露目されています。
奈良でも一年に一度しか見ることができない正倉院の貴重な宝物を、東京で見られるチャンスです。

■ 展覧会の構成

6章構成です。

第1章「聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物」
正倉院宝物の中核である《東大寺献物帳(国家珍宝帳)》に記された品々の紹介。

第2章「華麗なる染織美術」
正倉院宝物の膨大な数の染織品には、唐で流行した華麗な唐花文の文様が多く見られます。

第3章「名香の世界」
足利義政、織田信長、明治天皇が一部を切り取った事で有名な「蘭奢待(らんじゃたい)」として知られる香木など。

第4章「正倉院の琵琶」
正倉院宝物を代表する、華麗な装飾の《螺鈿紫檀五絃琵琶》。

第5章「工芸美の共演」
法隆寺(607)献納宝物と正倉院(752)宝物が並べて展示されています。

第6章「宝物をまもる」
正倉院の文化財の伝承について。現在では、X線や赤外線カメラなどを用いた調査・点検が続けられています。

■ 正倉院とは

奈良の東大寺の正倉(倉庫)として作られた、校倉造(あぜくらづくり)の大規模な高床式倉庫。
現在は宮内庁が管理しています。
約1260年間、聖武天皇・光明皇后ゆかりの品をはじめとする、天平時代を中心とした多数の美術工芸品約9000点を収蔵している建物。
1997年(平成9年)に国宝に指定され、翌1998年(平成10年)に「古都奈良の文化財」の一部として、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されました。

■ 展示作品

正倉院の宝物を計43件展示。
前期展示品では、インド起源の「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」

後期展示品では、夜光貝やこうがいなどで装飾した「平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)」など。
あわせて「竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)」などの法隆寺献納宝物も、計16件展示されています。

■ 注目の一品、《螺鈿紫檀五絃琵琶》

歴史の教科書に載っている、日本人にとっておなじみの五絃琵琶です。
聖武天皇に献上され、その後、光明皇后が聖武天皇の七七忌(四十九日)に東大寺大仏に献納した宝物。
奈良時代(8世紀)に中国から伝来したもので、正倉院宝物の目録の中でも最も古い『国家珍宝帳』に記載されています。
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頭部が真っ直ぐに伸びているインド起源の五絃琵琶。

インドから中央アジアのオアシス都市国家、亀茲(きじ)国経由で唐に入り、日本にもたらされたといわれます。

唐から伝来した古代の品で現存する唯一の五絃琵琶は、この1品のみ。

南インド産の紫檀の木地に、夜光貝の螺鈿や玳瑁(たいまい)で、見事な装飾が施されています。
正面のバチ受けには、フタコブラクダの背に敷物を掛けて乗った人物が琵琶を奏でています。
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ちなみにこの人物が弾いているのは、頭部が直角に折れた、ペルシャ(イラン)起源の四弦琵琶。
ペルシャは四絃琵琶で、インドは五絃琵琶。
楽器はインドの五絃琵琶なのに、装飾の絵はペルシャの四絃琵琶という点が、ちょっとややこしいですね。
五弦琵琶は平安中期になくなり、現在の琵琶は四弦です。
音域が四弦琵琶よりも狭く、演奏法も難しかったのが、すたれた理由とされています。
   *   *   *   *   *   *
今回の展覧会は、正直(教科書や資料集で知ってるからね~)という軽いノリで向かい、(何としても見よう!()という気持ちではありませんでした。
しかし、五絃琵琶の実物を前にして、胸を弾丸で打たれたような大きな衝撃を受けました。
細部にわたる緻密な装飾は、なんと美しく繊細なんでしょう。
観ても見ても、完璧なひと品。楽器でありますが、まごうことなき完全な芸術品です。

ぐるりと裏側も見られるようになっており、裏側に周ってさらに胸打たれました。
びっしりと埋め込まれた螺鈿の精緻さ。
それが、1200年以上の年月を経て、今なお美しくきらきらと輝いています。

言葉にできない心の動き方。
この琵琶の前でいったん心臓が止まり、その直後に命を吹き込まれたような、大きな心の動きを感じました。

   *   *   *   *   *   *

宮内庁が制作に取り組み、8年をかけて本年完成した、この琵琶の精巧な模造品も、あわせて展示されていました。
会場エリアには琵琶師の松浦経義氏が奏でた五絃琵琶の音色が流れており、当時の雰囲気にひたることができました。

■ 観られなかった《瑠璃盃》

正倉院の宝物としてもう一つ習ったものがありましたね。
そう、瑠璃盃(るりのつき)です。
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琵琶との感動的な出会いがあっただけに、こちらも本物をこの目で見たい気持ちが募りました。

今回の東京展では見られなかったので、いつの日にか、ぜひ拝見したいものです。

■ 会期


前期 2019年10月14日(月・祝)~11月4日(月・祝)
後期 2019年11月6日(水)~24日(日)
* 前後期で大幅な展示替えがあります(五絃琵琶は前期のみ)
    
   *    *    * 
* 奈良国立博物館(奈良市)では、ほぼ同時期に、毎年恒例の正倉院展が開催されています。
「御即位記念 第71回正倉院展」
10月26日~11月14日
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2019年07月29日

兜が重くて武士はつらいよ~日本のよろい!

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日本のよろいは、武士の身を守る道具ですが、加えてさまざまな工芸技術が織り込まれた一つの芸術品でもあります。
武士の戦場での活躍を際立たせる効果を狙って、人目を引く華やかな美しさも求められ、デザイン性に富んだものになっています。

この展示では、中世・近世に作られた本物のよろいと、現代に作られたよろいの製作見本をあわせて展示し、複雑に見えるよろいの構造などを分かりやすく紹介します。

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重要美術品 金小札紅糸中白威腹巻(きんこざねべにいとなかじろおどしのはらまき) 安土桃山時代・16世紀

500年ほど前に製作された甲冑です。

ちなみにこの「重要美術品」とは、「重要文化財」とは違います。
優れた美術品や歴史的資料の海外流出を防ぐ目的で制定された、準国宝級の美術品のことです。
重要美術品は1950年の『文化財保護法』の制定時に廃止となりましたが、重文(重要文化財)に次ぐものという意味で、現在でも使われることがあります。


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現代のものとしては、伊達政宗など、戦国武将の鎧をイメージして作られた甲冑の製作見本が4体、飾られていました。
実際にこうした武将たちが集っていたら、さぞや目立っただろうと思います。

「親と子のギャラリー」と書かれているように、たしかに子供連れもいましたが、むしろ外国人に大人気でした。
よろいを触ったり、かぶとをかぶったりできる、体験型の展示で、大喜びで兜をかぶせてもらっている外国人の様子を見て、私もかぶせてもらうことに。
彼らのおかげで勇気が出ました。

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実際にかぶってみると、重くて頭を動かせません。
うっかり下を向いたら、もう首を上げられなさそう。
「20キロくらいありますよ」と、兜を支えてくれながら、係の人が教えてくれました。

なんとなく、ひこにゃんの兜に似ていますね。


期間中は革や鉄でできた小さな板“小札(こざね)“を紐で結び合わせる“おどし”の技術を使った飾りづくりのワークショップ(予約制)や、鎧の着用体験(先着順)が実施されています。
本館-特別4室 日本文化体験コーナー
2019年7月17日(水) ~ 2019年9月23日(月)
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