2018年05月28日

名工の明治

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今年は、明治元年(1868)年から満150年。
東京国立近代美術館工芸館開館40周年記念と合わせて、明治から現代までの名工による工芸品約100点が展示されています。
北の丸公園内にある国立近代美術館。
工芸館は、本館から徒歩5分くらいの距離ですが、ゆるい登り坂になっているので、もっと遠く感じます。

Ⅰ. 明治の技の最高峰―帝室技芸員

帝室技芸員とは、日本の宮内省によって運営された、最高峰の美術・工芸作家の顕彰制度で、明治中期から終戦前年まで任命されました。現在の人間国宝の前身ともいえます。

帝室技芸員であり明治工芸の超絶技巧者として名を馳せた、板谷波山、初代宮川香山、加納夏雄の作品が並びます。

香山ファンの私としては、彼の作品を見られただけでも来たかいがあります。
雛を見守る親鳥の愛情あふれる作品。

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初代宮川香山 (1842-1916) 鳩桜花図高浮彫花瓶 c.1871-82 陶器


菖蒲図花瓶は超絶技巧作ではありませんが、控えめながら凛とした形と採色の美しさが際立ちます。
初夏を体現しているかのような作品に、しばらく見入りした。

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初代宮川香山 (1842-1916) 色入菖蒲図花瓶 c.1897-1912 磁器


Ⅱ. 明治の名工―鈴木⻑吉と《十二の鷹》

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今回のメイン展示。1室まるごとこの作品のためにしつらえられ、中央に十二羽の鷹が停まっています。
今にも動きそうなほど、リアルな仕草の鷹をいろいろな角度から眺められるぜいたくさ。
金、銀、銅、赤銅、四分一といった金属を使い分け、どっしりとした中にも華やかな効果を上げています。

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これは帝室技芸員だった鈴木長吉(1848-1919)の代表作の一つ。
実際に鷹を飼って観察し、4年の製作期間をかけて生み出した精緻な表現。
観れば観るほど、その精巧さに驚くばかりです。

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1893年に開催されたシカゴ・コロンブス世界博覧会で発表され、好評を博したもの。
東京国立近代美術館工芸館が所蔵しており、数年をかけて修復・復元したもののお披露目会となっています。
発表当時、アメリカ人も生きているような鷹の姿を見て、舌を巻いたことでしょう。
いやあ、これは本当にすごいわ。一見の価値ありです。

Ⅲ. 技の展開と新風

鷹の興奮冷めやらぬままだったので、多少ポーっとしながらの鑑賞となってしまいましたが、第1章に一つあった板谷波山の作品が、さらに3点も展示されていました。

田辺⼀竹斎(二代竹雲斎) (1910-2000)の「透し編瓢形花籃」(1939)は、見事な竹細工品でした。

Ⅳ.技を護る・受け継ぐ−戦後の工芸保護政策と、今日の技と表現

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戦後から現代の人間国宝による作品までが展示されています。

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十二代今泉今右衛門「色鍋島緑地更紗文八角大皿」 c.1974

美しい色合いが目を引く今泉今右衛門の八角大皿。
よく見ると不思議なデザインで、尻尾の長いユーモラスな顔の動物が描かれていました。
ムジナかタヌキでしょうか?

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北⼤路魯山人 (1883-1959) 色絵金襴手蓋物 c.1940 磁器

魯山人による、朱と金を基調とした華やかな五点ものの蓋物。

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黒田辰秋 (1904-1982) 朱漆流稜文飾箱 c.1957

なんとも不思議な箱です。
どこがふたでどうやって開けるのか、よくわかりませんでした。
日本にもこんなモダンデザインの萌芽があったとは。

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江里佐代子 (1945-2007) 截金六角組飾筥 六花集香 1992 木、金属箔、截金

同行の母が一番注目した作品。
女性ながら截金分野で3人目の人間国宝(過去最年少)となりましたが、近年突然死去され、芸術界が悲しみに沈んだとのことです。
落ち着いた品のある飾り箱が展示されていました。
厚さ1mm以下の細い金箔や銀箔を張り付けた細かな模様。
これも、ふたを開けた時の様子を見てみたいものです。

2020年には金沢に移転が決まっている工芸館。
あと2年後に迫り、カウントダウンも始まっています。
そんな中で、館が所蔵する明治の傑作品を鑑賞するいい機会となりました。

工芸館開館40周年記念 名工の明治
2018年3月1日(木)-5月27日
東京国立近代美術館工芸館

2018年05月08日

ダイアン・クライスコレクション アンティーク・レース展

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カラー<ウジェニー皇妃に由来>
ニードルポイント・レース 19世紀第3四半期 フランス

乙女の夢を引き立てるような繊細で美しいレースは、ファッションやインテリアにさりげなくも華やかに彩りを添えるもの。
今では万人に愛されていますが、かつては庶民には手が届かないほど非常に高価で、富と権力の象徴となっていました。
ヨーロッパの王侯貴族の保護を受けることで、職人技術が培われ、レース産業は発展していきました。

職人たちが長い時間をかけて手作業で作り上げた作品は、「アンティーク・レース」として世界中にファンがおり、大切に保存されています。
機械ものが主流となった現在では、当時の技術はほとんど失われてしまい、その技術を再現するのは困難と言われています。

今回展示されるのは、世界的なアンティーク・レースコレクターで鑑定家のダイアン・クライス氏コレクションから、レース全盛期だった16世紀から19世紀までの作品約170点です。

16世紀には貴族の娘の手習いだったレース。
16~17世紀には、貴族のレースは主に修道院で作られたそうです。
貴族が依頼をすることで、職人に職を与え、後にそのレースを寄付することで、死後天国に行けるとされていたそう。

また、職人のほかにレースデザイナーがいることで、さまざまなパターンを駆使し、芸術性にとんだ作品が生み出されました。

「ニードルポイント・レース」は、1本の糸だけで針を刺して作る技法。
16世紀のイタリア、17世紀のベルギーで発達しました。

「ボビン・レース」は 糸巻きの糸を組んで作る技法。
16世紀ころからフランドル地方で発達しました。
何千本のボビンでレースを作るため、太さ、色、飾りなどが一つ一つ違うボビンを使い、区別しながら編み込んでいったようです。 

レースのモチーフには色々なパターンがあり、今ある最細の糸でメッヘレン・レースを1平方センチ作成するには1時間かかるそう。
今よりも細い糸で編まれていた昔は、作成にもっと時間がかかったそうです。

拡大して見ないと分からないほどの細かい糸繰り。会場の各所に、ルーペが設置されています。
見れば見るほど非常に繊細で、ちょっと力を入れるとすぐ千切れてしまいそう。
かつてベルギーで、手編みレース作業を見学したことがありましたが、改めてその技術の細かさに驚きました。

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レースとともに、歴史の変遷も学べます。
当時の王侯貴族の肖像画を多く残した画家のヴァン・ダイクは、首元のレース表現を非常に巧みに描いています。
当時興隆を極めたオランダの貴族は、男女共にレースを身につけていました。
ダッチ・レースには牡丹のデザインなどが見られ、東洋の影響を受けていることがわかります。

シノワズリ(中国趣味)だったマリア・テレジアと、ジャポニスム(日本趣味)だったマリー・アントワネット。
日本アートのコレクターで、当時のファッションリーダーだったマリーが輿入れしたことで、レースがフランスに広まりました。

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ロイヤル・ウエディングのためのフラウンス<マリー・アントワネットに由来>
ホビン・レース 18世紀後半 フランドル地方

その後フランス革命が起こり、豪奢な衣裳からコットンなどのシンプルな服にファッションが変わったことで、フランスのレース職人は仕事を失い、その多くがベルギーに移住したそう。
ベルギーのレース技術はそこから栄えていきました。

産業革命による機械の登場で、チュールやレース産業は衰えましたが、今度はナポレオンがレースの復興に乗り出しました。
たしかに絵画で見るナポレオンは、よくレースを着用しています。

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ラペット<ナポレオン・ボナパルトおよびマリー・ルイーズ皇妃に由来>
ニードルポイント・レース 1750年頃 フランドル地方

20世紀初めから第一次大戦中のベルギーのレース職人は5万人。
戦時中には国でこの技術を保護し、「ウォー・レース」と呼ばれたそうです。

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王族もしくは貴族女性のドレス
ホビン・レースとニードルポイント・レース 19世紀 ベルギー


見れば見るほど引き込まれる、芸術性の高い奥深い世界。
もう、ため息しか出ません。
デザインは多岐に富み、国章や幾何学模様、文字もレース化されています。
ミレーの《種まく人》や《落穂拾い》、ブーシェの《牧歌的風景》の絵画をレースにしたものもありました。
かつては、編めないものはなかったのでしょう。
こうした繊細かつ豪奢なレース作成技術が失われてしまったということが、残念でなりません。

そごう美術館を出たところには、明治34年創業の横浜元町の老舗、近沢レース店のブースがあります。(今回の展覧会に協力)
こちらのレース製品も、芸術的で美しいものばかり。
ロマンチックなデザインに、あらためてじっくりと見入りました。
ダイアン・クライスコレクション アンティーク・レース展‎
2018年4月13日(金)〜5月13日(日)
そごう美術館

2017年10月20日

驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-

00088561.jpg三井記念美術館

2014年に開催した超絶技巧展の第2弾。
前回は明治工芸にフォーカスしたものでしたが、今回は七宝、金工、牙彫、木彫、陶磁などの明治工芸に加えて、現代アートの超絶技巧が展示されているとのこと。
展示品のほとんどが、ミニチュア技巧作品コレクションを誇る清水三年坂美術館の所蔵品。かなりの協力を得て開催に至ったことと思われます。

● 安藤緑山の生鮮食物

美術館入口のパネルに、キュウリの作品が載っていました。
「なんとこれが象牙の彫刻!」と書かれてあり、(象牙?)と思いながら再びまじまじと見ますが、画像のものは、キュウリ以外には見えません。

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実際の作品は、360度ぐるりと周って鑑賞できるようになっていました。
マイクロスコープを使い、相当目を凝らして鑑賞しましたが、へたやイボの様子などがとてもリアル。見れば見るほど、とても象牙とは思えません。
台湾・国立故宮博物院所蔵の『翠玉白菜』以上のクオリティです。

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安藤緑山『胡瓜』(本展覧会サイト掲載画像)


作者は明治から昭和にかけて活動した安藤緑山。
活躍当初から人気を博していてもおかしくないほどのレベルの持ち主ですが、安藤緑山についての情報はほとんど残されておらず、生没年さえも不明だそう。
作品のみが残されているという、ミステリアスな作家です。

ほかにもパイナップルやバナナ、竹の子、葡萄といった見慣れた食べものをモチーフにした彼の象牙作品が展示されています。どれも全方向からの鑑賞が可能になっており、全てがその食べ物にしか見えません。
触ると固いなんて、そんなことはないでしょう~と、心のどこかで思っています。
食べ物の放つ匂いさえ感じられそうな彼の作品。とてもおいしそうなコーナーになっていました。

● 二人のナミカワ

明治期に七宝焼の頂点を極めた並河靖之と濤川惣助の「二人のナミカワ」のライバル物語を知りました。
京都と東京で、活躍の場は離れていたものの、その並外れた技術を常に比せられた二人。
それぞれの作品は、どちらも甲乙つけがたい、有無を言わせぬ美しさに満ちています。
非常に見がいがありました。

● 宮川香山

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宮川香山『猫ニ花細工花瓶』眞葛ミュージアム(撮影可作品)


幻の眞葛焼の彼の作品見たさにこの展覧会に足を運んだといってもいい、香山ファンの私。
花瓶の高浮彫の猫は、毛並までがリアルに表現されており、写実的。
裏面には、描かれた雀が飛んでいました。

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初代宮川香山『氷窟鴛鴦花瓶』(眞葛ミュージアム蔵)


香山作品は3点展示されていました。
画像は不思議な形ですが、白く垂れているものは氷柱。
氷に閉ざされた中に小さな洞があり、かがんで中をのぞくと、そこには寒さに震えて寄り添う一対のおしどりがいました。
冷たい中に、ぬくもりを感じられる作品です。

● 現代超絶技巧

今回は、現代の作家の作品が数多く展示されていました。
食べかけの秋刀魚の作品があり(おいしそう)と思いますが、この秋刀魚は木彫り。さらに一木造りの技法でできており、秋刀魚と置かれた皿は一つの木材から彫り出されているため、独立せずにつながっているそう。
彫刻刀を間にすべらせて、空間を作ったとのこと。慎重さと大胆さが必要な、まさに超絶技巧です。

この『一刻:皿に秋刀魚』(2014年)の作者、前原冬樹氏は、プロボクサーから転身して東京藝術大学へ入学し、油画科から彫刻へと転じ、木彫り彫刻家となったという異色の経歴の持ち主。世の中にはすごい人がいるものですね。

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高橋賢悟「origin as a human」(撮影可作品)


花が飾られた銀色の繊細な髑髏。見れば見るほど細かなパーツでできあがっています。
これは溶かしたアルミニウムを型に流し込み、細かなパーツを組み合わせて作られているそうです。

ほかにも鹿の骨で作った彫刻、橋本雅也『ソメイヨシノ』や、蛇革のバッグから蛇が鎌首を揚げる七宝細工、春田幸彦『反逆』など、才気あふれる若々しい現代作家たちの作品が、数多く展示されていました。

超絶技巧とは、ひたすら細密な技術のアートかと思っていましたが、元の素材がわからないほど別のものになっているという状態も指すのだと知りました。
作品を見ただけでは、それが何でできているのか、まったく見当もつかないものばかり。
色も質感も全く別のものに変えるまでに、作家は気の遠くなるような細かい作業を続けているわけです。
どうしてその素材でそれを作ろうとしたのか、不思議に思える作品がずらり並んでいました。

七宝、漆工、牙彫、木彫、自在、陶磁、金工、染織など、多岐にわたった出展作数は約150点。
小さな作品が多く、みんな覗き込んで鑑賞するため、なかなか列が進まず、慢性的に混雑しています。
学芸員が各部屋にいないことが少し意外でした。時折、ガードマンが巡回するのみです。
そのため、素材によく登場する「四分一」がなにを表すものか、聞けずに帰りました。
あとで調べたところ「金属工芸で使わる、銀と銅の合金」だとわかりました。

美術学校の学生たちが連れだってやってきて、熱心に鑑賞していました。
特に現代作家のものは、実物を目にすると得るところ大でしょう。
「この作者のtwitter、フォローしてるんだ」などとつぶやく声が聞こえてきます。
東欧人の2人組もおり、小さな声で異国の言葉を喋りながら、じっくりと鑑賞していました。

「驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-」
開催期間: 2017年9月16日(土)〜2017年12月3日(日)