2017年10月23日

運慶展(2回目)

東京国立博物館
pnfu-unkei-2-.jpg


一週間前に行った運慶展を、再び訪れました。
台風接近中のため、客足が遠のいているかと思いきや、前回よりも長い列ができていました。
大雨などものともしない美術ファンが、この日も集まっているようです。

DSC_1008.jpg


この展覧会では、男性客が多いととみに感じます。力強さが持ち味の運慶ですからね。
その分、作品を取り囲む人の壁が高く感じます。
その中に、人の足元から顔を出すように、小学生低学年の少年もいました。
解説スピーカーを聞きながら、熱心に像を観察しています。
将来の仏師候補かしら。

なかなか同じ展覧会を2度見に行く機会はありませんが、一度拝観済みの作品には親しみが湧いて、よりじっくりと鑑賞することができました。

DSC_1009.jpg


四天王が風を受けて袖をはためかせている構図の中には、袖口を縛っているものもあります。
バタバタいって邪魔ですもんね!
色あせつつもなお鮮やかさが残っている衣裳の模様なども。
仏像の白毫がキラキラきらめいている様子や鬼たちの力の入れ具合や安定した体幹も。

浮ついた気持ちでなく落ち着いて確認しながら復習できるのがいいです。
といっても、そう何度も来られないものですが。

今回は、この日から公開が始まる長岳寺(奈良県天理市)の阿弥陀三尊と浄楽寺(神奈川県横須賀市)の阿弥陀三尊像(重文)を観たくて向かいました。

42年ぶりに浄楽寺の外に出るという、阿弥陀如来坐像および両脇侍の観音菩薩・勢至菩薩の立像。
すでに毘沙門天像と不動明王像は展示されているため、これでこの寺所蔵の運慶作仏像5体が揃ったことになります。
阿弥陀像の指の間に、水かきを発見。
長岳寺と浄楽寺のどちらの阿弥陀三尊像も精密で、息をのむような神々しい美しさに満ちていました。

DMnreN3U8AIukTE.jpg
浄楽寺の阿弥陀三尊像 (c)運慶展公式twitter


多聞天の持つ塔は何を意味するのか、気になります。
これは仏舎利(お釈迦様の遺骨)の入った宝塔だそう。

鎌倉幕府の武家社会を、仏像を通して形で表すという役割を果たした芸術家。
改めて、人物像の筋肉と衣装の精緻さに見入ります。

筋肉や血管などの浮き出た力強い表現と衣装のドレープのひだまで再現した優雅な表現。
像によってきちんと分けている、迫力と優美さの徹底ぶり。
リアルを超えたデフォルメのリアリティに吹き込まれた命を感じます。
何度見ても魂が宿っているようで、夜中に動いていそうな気がしてなりませんでした。

DSC_1012.jpg


開館時間頃に入り、会場を出た頃にはもうお昼になっていたので、カフェテリアで京都・たん熊のお弁当をいただきました。

⇒レビュー・「運慶展(1回目)」

2017年10月16日

興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」

東京国立博物館(東博)平成館
tirasi.jpg

開催前から大きな話題を呼んでいる『運慶展』に行ってきました。
なぜ話題かというと
・教科書に載っており、誰でも知っている有名仏師運慶 の、
・全国各地に現存する運慶作といわれる仏像31体のうち、22体が結集した史上最大規模の展覧会 で、
・運慶の父や息子の作品も展示し、慶派の流れがわかる
という理由からです。

運慶(生年不詳~貞応2(1223年)年12月11日)は、日本の歴史の中でも一番著名で人気の高い仏像製作者。
約70点の展示品のほとんどが国宝や重要文化財指定を受けているお宝ばかり。それがここまで一カ所に集まるのは初めての機会です。

混むことは必須ですが、それでも観に行きたいもの。
早起きして、博物館の開館前に向かいました。
行列はできていたものの、それほど待つことなく入場。
しかし、敷地内に入ってから、平成館の前でまたもや行列に並ぶこととなりました。

中に入っても大混雑していましたが、一体一体が独立した展示をされているため、アリの行列のように順々に動くこともなく、覚悟していたよりもずっと鑑賞しやすいものでした。

運慶のほかに、父親の康慶、息子の湛慶、康弁らの作品も展示されており、彼らの作品から親子3代にわたる慶派の流れを知ることができます。

● 大日如来 

入ってすぐのところにさっそく国宝があり、人々の足を止めさせます。
「運慶デビュー作」と紹介されていますが、そうとは思えないほどの完成度の高さ。
引き込まれそうです。

大日如来像-国宝-円成寺.jpg
国宝「大日如来坐像」運慶作(奈良・円成寺蔵)


新宗教教団の真如苑が2008年にニューヨークのクリスティーズ・オークションで13億円で落札したことで話題になった大日如来像も展示されていました。
この二体の像を比べると、非常に似ています。
これが運慶の大日如来像なんですね。

真如苑.jpg
「大日如来像」運慶作(12世紀 東京・真如苑蔵)

厨子に納められた大日如来坐像もありました。
こちらは小ぶりで、膝を曲げて鑑賞。
細部に至るまで丁寧に作られており、見飽きません。
飛天も美しく、動きあるものでした。

04-7815c.jpg
「厨子入大日如来坐像」運慶作(12~13世紀、栃木・光得寺所蔵)


● 八大童子

高野山金剛峯寺が所蔵する、八大童子の像。
不動明王に仕える童子たちの生き生きとした立像です。
童子をまとめてではなく、一体一体専用のケースに入れて独立させて展示しています。

どの童子も、衣の模様がとても美しく、紐に至るまできちんと表現されています。
360 度ぐるりと鑑賞できるのが、とても嬉しいところ。
ぐるりと回ってみると、全体的な質感が実感できます。

5douji.jpg
国宝「八大童子立像」運慶作(鎌倉時代 金剛峯寺蔵)


八大童子の中でも制多伽(せいたか)童子と矜羯羅(こんがら)童子が不動明王の使者の二童子としてよく知られていますが、特に印象的だったのは、恵光童子。
毛先カールは矜羯羅童子像に似ていますが、色白なので、衣の色が映えています。
左手に持っているのは、灯りではなく月輪を乗せた蓮華。
怒りの表情をしていますが、とても美しい像です。これで恵光さんのことを覚えたわ。

恵光童子.jpg
左・恵光童子 右・制多伽童子


● 四天王

四天王立像が何体も展示されていました。
中でも注目すべきは、奈良・興福寺南円堂の国宝「四天王立像」。
約2メートルの巨像で、見上げての鑑賞となります。
動きがあり、力強さがみなぎっています。
運慶の像といえば筋肉隆々のイメージですが、よろいや衣の表現も厚みがあって、精緻ですばらしいことを知りました。
静岡・願成就院蔵の四天王立像も、動きがあり躍動感に満ちたものです。

四天王.jpg
国宝「毘沙門天立像」運慶作(静岡・願成就院蔵)


運慶の活躍した時代は、平安時代の貴族社会から鎌倉時代の武家社会へと主権が移り変わるさなかでした。
新興勢力である東国武士が新たに彼のクライアントとなっていきます。
そうした武士のニーズに応えたため、武将のような体躯と顔つきをした仏像が制作されたということです。
戦いの神、毘沙門天は武士に人気が高かったため、依頼が多かったのでしょう。

● 高山寺の子犬

京都・高山寺には、石水院のレプリカの鳥獣戯画図が展示されていますが、その横にさりげなく子犬の像が置かれています。
愛らしいその犬が、運慶の長男、湛慶の作品と聞いて驚きました。
それもレプリカでしたが、今回実物を見ることができました。
つい撫でたくなるようなかわいらしさに満ちています。

DJFq-d3VAAAPyjx.jpg
高山寺の子犬像 湛慶作


● 十二神将

干支に属した十二神将が勢ぞろいしていました。
京都の浄瑠璃寺伝来の像は、現在、7体が静嘉堂文庫美術館、5体が東京国立博物館に分かれて所蔵されているとのこと。
それが再び12体揃って展示されるのは、42年ぶりのことだそうです。
どの神さまも、頭に自分の担当の干支を載せていました。

● 龍燈鬼と天燈鬼

この2対の鬼たちは、運慶の三男、康弁の作。
龍燈鬼は頭に灯籠を載せ、「むむ、重い」という感じで目が上を向いています。
首には龍がマフラーのように巻き付いています。
天燈鬼は灯籠を「エイヤッ!」と片手で持ち上げています。力のかけ具合がリアル。
二体で「阿吽」を表している、4等身の小さい立像。
ユーモラスさがありながらも腕やお尻の筋肉は隆々として、とてもリアルな表現。
本当に物陰にいそうです。

oni.jpg
左・国宝「龍燈鬼立像」 右・「天燈鬼立像」 康弁作(奈良・興福寺蔵)


慶派という派閥だけあり、父・運慶・息子と、リアルな表現力は脈々と受け継がれています。
運慶は作品に玉眼(水晶を入れた目)を入れているため、さらに目の輝きで、表情が出ており、どの像も突然動き出してもあまり驚かないほどの存在感。
日本一有名な仏師が作り出した作品のクオリティは、他の追随を許さないほどで、全ての作品に感嘆し、圧倒されました。

会期中、もう一度くらい観に行きたいと思っています。
*作品画像は東京国立博物館の公式サイトより
----------------------------
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」
会場:東京国立博物館 平成館
期間:2017年10月11日(水)~11月26日(日)

運慶展(2回目レビュー)

2017年07月03日

没後20年 司馬遼太郎展「21世紀“未来の街角”で」

そごう美術館 (2017.6.30)
981_n.jpg


司馬遼太郎の回顧展。もう亡くなられてから20年たったんですね。
没後20年にあたる昨年から国内6カ所での巡回予定。北九州、大阪、高知、そして横浜が4会場目。
東日本地区では唯一の開催地になります。司馬さんファンは関西の方が多いんでしょうか。
タイトルに横浜開港158周年も含まれているということは、彼の作品で横浜の開港が語られることがあったからではないかと思います。

全3部構成。作品の刊行年順ではなく、作品の描かれた時代別にまとめられており、日本の歴史に沿って話が紹介されているため、ディープなファンでなくてもわかりやすく追って行けます。
作品ごとにまとめられ、自筆原稿のほか、登場人物の関係資料、関連する絵画などが展示されています。

190_n.jpg


Ⅰ「戦国動乱 16世紀の街角」
Ⅱ「維新回天 19世紀の街角」
Ⅲ「裸眼の思索 21世紀の街角」


入り口には傘を持って歩く司馬氏のシルエット、入ってすぐには、『竜馬がゆく』の新聞連載のコピーがびっしりと壁に貼られたコーナーがありました。

467_n.jpg


会場内は、ご年配の男性がほとんど。数人で来ては、小声で話をしながら熱心に一つ一つの資料に見入っています。
女性の姿は数人しか見えず、みんな夫婦で来ている風で、女一人は私くらいでした。
歴史を扱っているだけに、男性に人気の高い作家なんですね。
そしてそごう美術館には、普段は部屋ごとに学芸員がいますが、今回は何故かガードマンがいました。
美術展ではないからでしょうか?

-----------------------------------------------------------------------
Ⅰ「戦国動乱 16世紀の街角」
歴史とともに描いた戦国時代の人々の鮮烈な生きざま。
作品ごとにコーナーにまとめられています。

『国盗り物語』(1965-1966年)
斎藤道三、織田信長、明智光秀の物語。
本能寺の変で敵と味方に分かれた信長と光秀は、どちらも斉藤道三の相弟子同士だったと知ります。
「天下布武(天下を武力で制するという意)」と書かれた織田信長の黒印状。
斎藤道三の遺言状を司馬氏が書き写した色紙がありました。
もうこのブースだけで(この展覧会、すごいんじゃない?)と驚いています。

『箱根の坂』(1984年)
北条早雲の「虎の印版」がありました。うーん、見るのも初めて。貴重です。
小説の場面に合わせた絵画も合わせて飾られています。
大きな金屏風は大阪城博物館所蔵物。ゴージャス!

『関ヶ原』(1966年)
歴史資料の「関ヶ原合戦配置図」が展示され、「関ヶ原合戦図屏風」のレプリカも飾られていました。

『功名が辻』(1965年)
NHK大河ドラマ化されたこの作品では、ドラマの撮影で使用された山内一豊の甲冑とその妻千代の打掛が飾られていました。
間近で見られたので、しげしげと観察。どちらも非常に細かいところまで行き届いた縫製でした。

ほかに『城塞』『播磨灘物語』など、多くの作品コーナーで自筆原稿を展示していますが、そのどれも、すごく直しています。
5色に色分けして、消したり加えたりの推敲の多さに驚き。
天下の名作家といえども、訂正に訂正を重ねた努力の末に、作品を仕上げていったことがわかりました。

-----------------------------------------------------------------------
Ⅱ「維新回天 19世紀の街角」
開港を迎えて近代国家へと大きな変貌を遂げる時代。

『竜馬がゆく』(1963-1966年)
坂本龍馬の書簡(複製)や薩長同盟の裏書きがありました。
歴史が動く音が聞こえてくる気がします。
新聞連載時に挿絵を担当した岩田寿太郎氏の原画もありました。 

『燃えよ剣』(1964年)の土方歳三の鉢金(複製)、
『新選組血風録』(1964年)の近藤勇の髑髏模様の稽古着(複製)もありました。
髑髏模様は、なかなかに迫力のあるスケルトンでした。

『胡蝶の夢』(1979年)
「胡蝶 夢」と書かれた自筆色紙があり、素敵な言葉なので、司馬氏が好んで色紙に書いた言葉かと思ったら、そういうタイトルの作品でした。

『坂の上の雲』(1969年-1972年)
こちらもNHK大河ドラマ化されたもので、秋山好古、秋山真之の兄弟や、正岡子規の撮影時の服装が展示されていました。

"横浜に触れた本"というコーナーには、『峠』(1968年)、『世に棲む日日』(1971年)、『花神』(1972年)など6、7冊の作品が並んでいました。
『花神』では、大村益次郎の細かな計算が記された数学ノート、『峠』では、河井継之助のガトリング砲(模型)が展示されています。

また、デビュー前に住んでいた大阪マンモスアパートの文机がありました。
正座をして収まる、小さな座机です。
ここで新聞記者時代に直木賞を受賞した『梟の城』を執筆したんだなあと思いながら眺めました。

-----------------------------------------------------------------------
Ⅲ「裸眼の思索 21世紀の街角」
エッセイの『街道をゆく』『この国のかたち』『風塵抄』、そして子どもに向けた「二十一世紀に生きる君たちへ」が紹介されています。
『街道をゆく』(1971年 - 1996年)は、絶筆するまで手掛けていた最長シリーズで、ライフワークと言ってもいいものでしょう。43巻出ており、海外版もあるとは知りませんでした。

「二十一世紀に生きる君たちへ」
シンプルな文章ですが、非常に意味深いものを感じます。
"君たちだけが持っている大きなものがある。未来というものである。
私の人生は、すでに持ち時間が少ない。
例えば、二十一世紀というものを見ることができないにちがいない"

彼の作品は本格的な歴史小説で、量が多くなかなか難しいというイメージがありますが、壁いっぱいに展示された「二十一世紀に生きる君たちへ」の全文には、次の世代への気持ちがつづられています。
あれだけたくさんの文章を紡いできた人ながら、削いで削いで削ぎ落した、非常にシンプルな文章のために、すとんと頭に入ります。これが最終的に彼が人々に残したかった言葉なんだろうと思いました。

最後のコーナーでは、司馬さんからの「二十一世紀とは、どんな世の中でしょう」という語りかけに、来館者たちがさまざまな答えを付箋に書いて、ペタペタと壁に貼っていました。

私は、司馬遼太郎記念館(大阪府東大阪市)からのノートブックに感想を書いて、あとにしました。

彼の緻密な作品構成から、その小説は完全な正史、正論のように思えますが、そうとは限りません。
作者が惚れ込んで描く主人公たちは、みんな青雲之志を掲げて活躍する凛とした格好よさがあります。
歴史に色付けをして主人公たちを生き生きとよみがえらせることで、歴史の面白さを人々に教えた彼は、今も変わらぬ偉大なエンターテイナーなのです。

この回顧展を観て読んでみたくなった彼の作品は
『梟の城』、そして「街道をゆく」の『横浜散歩』『十津川街道』。
もともと長宗我部元親の本が読みたくて『夏草の賦』 もチェックしていましたが、まずは有名なところから読み始めたいと思います。

7月9日㈰まで横浜・そごう美術館で展示。
その後は、愛媛県美術館、姫路文学館で展示予定です。

566_n.jpg