2019年12月11日

金原瑞人「案外知られていない翻訳の話」

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2019.10.18 中原市民館

翻訳家で法政大学教授の金原瑞人氏の講演会。
500点以上の洋書を翻訳し、日本に『ヤングアダルト』というジャンルを紹介された方です。
芥川賞作家、金原ひとみさんの父親として知りましたが、それより前に、いろいろな絵本でこの方の翻訳を読んでいました。

翻訳界における重鎮の方ですが、若々しい、青年のような声。
さすが、ティーンズ小説を世に広めた方だけあります。

                  *  *  *
初めに「Please don't shoot the piano player!」と書かれたポスターが、画面に映し出されます。
アメリカの西部開拓時代、ガンマンたちがやってくる酒場には、客同士のケンカのとばっちりを食わないように「ピアニストを撃たないで」という貼り紙が貼られてあったそう。

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確かに、前に見た西部劇映画でも、酒場で激しい銃撃戦が行われている中、ピアニストがものすごい勢いで演奏をしていました。
(なぜあのピアノ奏者は逃げないの? そしてなぜ撃たれないの?)と、子供心に不思議でなりませんでしたが、当時は貴重だったピアニスト。「女子供には手をかけない」的な暗黙の了解が存在したわけですね。

さらに「(下手なりに)一生懸命弾いているんだ!」→「(下手だからといって)ピアニストを撃たないで!)(下手なりに)一生懸命弾いているんだ!」
という意味も含まれるとの説明がありました。

                  *  *  *
漱石の『吾輩は猫である』を英語タイトルに直す場合。
どんなに腕利きの翻訳者でも、『I'm a cat』としか訳せません。

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日本語に直す場合、「I」は100以上の表現があるとのこと。
たとえば、浜崎あゆみが自分を語る時の「あゆ」も一人称、つまりIと見なされるからです。
となると、もうカウントできない数になりますね。

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そして、読む方向の話。
北半球では日時計の影が右回りなので、時計も右回りになっています。

ただ、英語と日本語では、読み進む方向が違います。
美術館の鑑賞ルートは、左回りになっているそう。
作品のタイトルが横文字で書かれているため、その流れに合わせているのだそうです。

縦書き表記は、世界でも日本と台湾のみしかありません。
マンガも外国語版にすると、読む方向が逆になるため、対応策として翻訳版は絵を反転させるのだそう。

その結果、『AKIRA』の英語版は、登場人物はみんな銃を左持ちしているそうです。
人気漫画家で多忙な作者は、時計の文字盤は直しても、その他の修正作業となると、細部にわたりすぎてとても不可能。
それは外国語版が出たコミック全てに見られることで、『らんま1/2』では、竹刀が左持ちされているそうです。

                  *  *  *
欧米文化がまだ日本に浸透していなかった頃の翻訳の難しさも語られました。
「たとえば、軽焼き饅頭ってなんだと思う?」と聞かれますが、会場では誰もわかる人がいません。
答えは、シュークリームでした。
『赤毛のアン』の訳者の村岡花子が、そう訳したそうです。
全然違いますね!ただ、シュークリームが日本になかった時代には、なにか別のもので代用させるしかなかったということです。

また、直訳するとおかしな役になるパターンも紹介されました。
たとえば「今日は誕生日だから焼き鳥ね」

なんだかおかしいですよね?
ふつう、焼き鳥は誕生日に食べるものではありません。
正解は、「今日は誕生日だからローストチキンね」だそうです。
ローストチキンという言葉がそのまま日本語になっていなければ、焼き鳥という訳になっていたとのこと。
なかなか難しいものです。

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                  *  *  *
講演後に、質問タイムがありました。
客席の文化人や学生などから、次から次へと熱心な質問が出ました。
話題に上った、性別がわからない書き方をしている作品の訳し方について、私も質問をしたいと思いましたが、質問者が多かったのでやめました。

性別不詳の人物描写は、英語では書けても日本語翻訳では難しいものです。
仏文学を学んだ自分としては、フランス語は男性と女性で名詞や動詞の語尾が変わるため、英語と違って性別不詳の人物描写は難しいのではないかと思います。

                  *  *  *
いろいろと翻訳小話を教えてもらえて、楽しいひと時でした。
そして、最近ごぶさたしている海外翻訳作品を、久しぶりに読んでみようかなと思いました。
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2019年03月19日

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019

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at パシフィコ横浜 会議センター メインホール

テーマ『The Age to Come 科学が拓く明るい長寿社会』
(聴講講演)
● 対話-Smart Ageing Study(楽しく賢く歳を取る)
   ティム・ハント、川島 隆太
   モデレーター:藤垣 裕子
● 健康-Life Style for Healthy Ageing(健康寿命を延ばすには)
   エリザベス・H・ブラックバーン、伊藤 裕、トム・カークウッド
   モデレーター:アダム・スミス
● 講演-Serendipities of acquired immunity(獲得免疫の驚くべき幸運)
   本庶 佑
● ノーベル賞受賞者による総括パネルディスカッション
  What can we say about the future(明るい未来への展望)
   エリザベス・H・ブラックバーン、アンガス・ディートン、
   本庶 佑、ティム・ハント、ランディ・シェックマン
   モデレーター:アダム・スミス

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ノーベル・プライズ・ダイアログは、ノーベル賞受賞者を含む世界の著名な研究者たちが語り合う公開シンポジウム。
日本では2015年から4回目の開催となり、今回のテーマは“The Age to Come”「科学が拓く明るい長寿社会」。
長寿社会や老化防止にかかる最先端の研究、技術革新などについての講演会となりました。

私は、本庶 佑さんの講演を聞きたいと思っての参加。
講演は全て英語で行われ、彼の日本語は聞かずじまいでした。

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日英同時通訳がありましたが、日本語にしてもさすがは世界最高峰水準、学術的専門性が高い、難しい内容でした。
でもざっくりいえば「幸せな人ほど長生きします」ということだったよう。
科学的にも実証されていることなんですね。
テロメア研究の第一人者、エリザベス・H・ブラックバーン氏は「Stay Curious.」と言っていました。

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最後のノーベル賞受賞者たち5名の対談では、最後にモデレーターが発した「皆さん、あとどのくらい長生きしたいですか?」との問いに(そういうこと聞くんだ!)と思いました。
登壇者たちは「10年」「4年」「今の研究が立証されてから」などとめいめいに言い、本庶さんは(うろ覚えですが)「120歳まで」と言われて、会場の笑いを誘っていました。

人類の役に立つ研究を行っている彼らはとても生き生きとしており、まさにやり甲斐は生きる力とリンクすることを体現していました。

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ところで、入場する時に、うっかり間違えてパシフィコの展示ホールの行列に並んでしまい、AKB48の54thシングル「NO WAY MAN」発売記念大握手会の会場に入り込みかけました。
厳しいセキュリティチェックを受けて(さすが、ノーベル賞受賞者は世界の宝だから安全必須なのね)と思いましたが、気がつけば周りは男性だらけの特殊な空間。
自分がどうなっているのかわけがわからなくなった、びっくり体験でした!

2018年10月23日

AIとヒューマニティ

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東京工業大学 大岡山キャンパス

司会:池上 彰 特命教授、
パネリスト:國分 功一郎 教授(科学技術社会論)、調 麻佐志 教授(哲学)、大塚 凱(俳人)

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院主催シンポジウム。
工学系大学ながら「あえてAI専門家ではない」文系の教授陣がAI(人工知能)をテーマに語ります。
益学長も聴講されていました。

【初めに挙げられたテーマ】
・AIの計算領域は?権利や名誉棄損などを考えるとしたら?
・話題の本、ハラリの『ホモ・デウス』(AIとバイオテクノロジーによる進化)
・鉄腕アトムの世界ではロボットは権利を認められていた
・ドラえもんはAI?
・人間をAIの力でアップデートできるか?
・ロボット開発はどこかで怖くなるのでは?
・人間のアルゴリズムとは何か?
・個性があり、予測不可能なのが人間の行動や感情。人間にしかできないことは何か?
・人間は何を信頼して生きていくのか?

【調 麻佐志氏】
・レンブラントの描いたものかAIの作品か、見た目では判断がつかない。

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・AIはレンブラントの贋作は描けても、フェルメールの贋作は描けない。
 本物の作品数が極端に少なく、サンプル学習ができないため。
・AIにはいい質問をすることや文脈や意味を理解することはできない。
・I love you.を「月がきれいですね」と訳した夏目漱石(しかし都市伝説)
・人間の仕事がAIに取って代わられるとの危機感が高まっているが、人件費の方がAIよりも安く上がる可能性もある。

【國分 功一郎氏】
・AIは高精度に発達した計算機。
・人間は他者を内面化することで、外的世界を想像する。
・人間の他者感覚は、見えなくても奥行きを想像することができる。
 他者感覚がなくなると、世界は目に見えているもののみに限定される。
 (ドゥルーズ『意味の論理学』より)。
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・想像という力を得るには、長い時間をかけて大勢の他者と個々に交流する必要がある。(ハイデッガー)
・AIが人間を上回る地点を表すシンギュラリティ(技術的特異点)
・AIは①他者感覚、②想像力、③奥行の3つを持てるか?

【大塚 凱氏】
・学生であり起業家。俳句をつくる「AI一茶くん」と対戦後、その開発に関わっている
・AIは俳句を1分間に何万句も作れる。
・AIには俳句の良し悪しが判断できない。
・AIの作る俳句には主体となる人物が存在しない。
・既存の俳句を取り込み、内面化して自分の句を作るという点は、人間もAIも同じ。
・創造活動とは大量にインプットした情報を取捨選択すること。そこに個性が出る。

【トークセッション】
・句そのものだけではなく、文脈や背景も含まれたものが俳句。AIにはそこが難しい。
・AIが大量のサンプルをもとに学ぶことで、量は質を越えられるか。
・そもそも、我々も人間そのものをわかっていないことを、AIに実感させられる。
・人間とAIの違いは、欲望があるかどうかということ。AIは欲望を持てるのか。
・以前ITブームが起こり、消えていった。目下、AIが世界的に旬のトピックだが、一過性のブームになる可能性がある。