2017年10月23日

素心伝心―クローン文化財 失われた刻の再生

シルクロード特別企画展「素心伝心―クローン文化財 失われた刻の再生」
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東京芸術大学大学美術館

東京藝術大学では、文化財をクローンとして復元する特許技術を開発し、文化財の再現に取り組んでいます。
クローン文化財とは、オリジナルの精細な画像データに3D計測や3Dプリンターの技術を用いて科学分析を行い、空間・形状・素材・質感・色を忠実に再現しているもの。

今回は危機に面したシルクロード文化の代表的な遺産、
 ・2001年にテロによって破壊された、バーミヤン東大仏天井壁画
 ・持ち去られた後に第二次大戦の戦火で失われた、キジル石窟航海者窟壁画
 ・保存のために一般公開が困難な、敦煌莫高窟第57窟
 ・模写作業中に焼損した、法隆寺金堂壁画
などを、クローン文化財として展示しています。
どれもすでに失われていたり、実物を鑑賞することが難しい作品ばかりです。

作品の他に並河万里氏のシルクロードの写真が飾られ、映像や音、香りなど、五感でシルクロードの世界が体感できるようになっています。

● 法隆寺金堂の壁画と釈迦三尊像(日本)

入ってすぐの部屋は、壁画に囲まれた法隆寺金堂を再現した空間。
声明が流れ、中央に法隆寺のご本尊・[国宝]釈迦三尊像が展示されていました。

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釈迦三尊像は現存していますが、法隆寺の金堂は1949年に焼損し、12面の壁画は失われました。
それを在りし日の金堂空間に再現しています。

「これらはクローン文化財です。レプリカではありません」と解説の人。
再現率の高さがレプリカとは違います。

● 高句麗古墳群江西大墓の壁画(北朝鮮)

[世界遺産]高句麗古墳群の江西大墓玄室には、高松塚古墳やキトラ古墳に描かれた四神図の源流とも称される壁画が描かれています。

高句麗は現在の北朝鮮で、政治的な関係から訪れることはできない国。
また、白い花崗岩の上に直接描かれているため、取り外して保管できず、劣化が進んでいるそうです。
復元した石室の中に入ってみると、4方向の壁に描かれた四神図。
日本の四神壁画よりも大きく描かれていました。

● 敦煌莫高窟第57窟の壁画と仏像(中国・甘粛省)

原寸大で再現された第57窟には、「東洋のヴィーナス」と言われる優美な仏像が微笑んでいました。

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美しく気高いそのたたずまいは、完全に異空間。
苦労をして敦煌まで行った所で、観ることはできません。
臨場感とともに味わえる、貴重な体験です。

● キジル石窟航海者窟の壁画(中国・新疆ウイグル自治区)

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航海者窟と言われる第212窟。
「ドイツ探検隊によってはぎとられベルリンに持ち去られた」という書き方に無念さを感じます。

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中国からドイツに持ち込まれた壁画は、ベルリン大空襲で消失してしまったとのこと。
中国としては納得がいかないところでしょう。

● バーミヤン東大仏天井壁画(アフガニスタン)

2001年にテロによって破壊されたアフガニスタン・バーミヤン遺跡。
仏像破壊時の爆風で、「天翔る太陽神」という天井壁画も失われてしまいました。
ここでは、採光なども現地と同じ状態にして、光によって浮かび上がる絵の様子を再現しています。

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中央に描かれた太陽神は、ゾロアスター教の神と言われています。
頭上には風神、足下には天使がおり、馬などもいるのはギリシャの影響。
インドやペルシャ、ギリシャといった東西の宗教が融合した、数少ないものだそう。
遺跡付近はいまだに危険区域で、調査も進められない状態ですが、会場内には復元された臨場空間が広がります。

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展示された仏頭やガンダーラ彫刻は、八ヶ岳高原にある平山郁夫シルクロード美術館のコレクションがメイン。
平山郁夫氏は保護のために、自費を投じて危険地帯にある文化財を集め、日本に持ち帰っています。

他に、ペンジケント遺跡発掘区6広間1の壁画(タジキスタン)とバガン遺跡の壁画(ミャンマー)がありました。

● さわれる文化財(クローン文化財)
バーミヤン石窟K洞ヴォールト部分 アフガニスタン流出文化財 壁画 仏座像

写真撮影可だけでなく、触っていいものもありました。
太っ腹!壁画の破片を手に取ってみると、ずっしりとした重みが伝わります。

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嗜好品ではない、リアルな文化財との触れ合い。
実際に触れることによるアート体験は大きく、それはクローン文化財だからこそ可能となっています。

あと数十年でしか保存できないようなものでも、クローンにすれば後世まで残せる芸術となります。
クローン文化財の今後の一層の浸透が期待されます。

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この日はちょうど東京藝大130周年のお茶会が開催されており、優美な着物姿の人が大勢会場に流れてきて、鑑賞していました。

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大学内のカフェテリアで、お茶にしました。
(展覧会は10月26日まで)
posted by リカ at 17:31| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2017年10月20日

驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-

00088561.jpg三井記念美術館

2014年に開催した超絶技巧展の第2弾。
前回は明治工芸にフォーカスしたものでしたが、今回は七宝、金工、牙彫、木彫、陶磁などの明治工芸に加えて、現代アートの超絶技巧が展示されているとのこと。
展示品のほとんどが、ミニチュア技巧作品コレクションを誇る清水三年坂美術館の所蔵品。かなりの協力を得て開催に至ったことと思われます。

● 安藤緑山の生鮮食物

美術館入口のパネルに、キュウリの作品が載っていました。
「なんとこれが象牙の彫刻!」と書かれてあり、(象牙?)と思いながら再びまじまじと見ますが、画像のものは、キュウリ以外には見えません。

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実際の作品は、360度ぐるりと周って鑑賞できるようになっていました。
マイクロスコープを使い、相当目を凝らして鑑賞しましたが、へたやイボの様子などがとてもリアル。見れば見るほど、とても象牙とは思えません。
台湾・国立故宮博物院所蔵の『翠玉白菜』以上のクオリティです。

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安藤緑山『胡瓜』(本展覧会サイト掲載画像)


作者は明治から昭和にかけて活動した安藤緑山。
活躍当初から人気を博していてもおかしくないほどのレベルの持ち主ですが、安藤緑山についての情報はほとんど残されておらず、生没年さえも不明だそう。
作品のみが残されているという、ミステリアスな作家です。

ほかにもパイナップルやバナナ、竹の子、葡萄といった見慣れた食べものをモチーフにした彼の象牙作品が展示されています。どれも全方向からの鑑賞が可能になっており、全てがその食べ物にしか見えません。
触ると固いなんて、そんなことはないでしょう~と、心のどこかで思っています。
食べ物の放つ匂いさえ感じられそうな彼の作品。とてもおいしそうなコーナーになっていました。

● 二人のナミカワ

明治期に七宝焼の頂点を極めた並河靖之と濤川惣助の「二人のナミカワ」のライバル物語を知りました。
京都と東京で、活躍の場は離れていたものの、その並外れた技術を常に比せられた二人。
それぞれの作品は、どちらも甲乙つけがたい、有無を言わせぬ美しさに満ちています。
非常に見がいがありました。

● 宮川香山

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宮川香山『猫ニ花細工花瓶』眞葛ミュージアム(撮影可作品)


幻の眞葛焼の彼の作品見たさにこの展覧会に足を運んだといってもいい、香山ファンの私。
花瓶の高浮彫の猫は、毛並までがリアルに表現されており、写実的。
裏面には、描かれた雀が飛んでいました。

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初代宮川香山『氷窟鴛鴦花瓶』(眞葛ミュージアム蔵)


香山作品は3点展示されていました。
画像は不思議な形ですが、白く垂れているものは氷柱。
氷に閉ざされた中に小さな洞があり、かがんで中をのぞくと、そこには寒さに震えて寄り添う一対のおしどりがいました。
冷たい中に、ぬくもりを感じられる作品です。

● 現代超絶技巧

今回は、現代の作家の作品が数多く展示されていました。
食べかけの秋刀魚の作品があり(おいしそう)と思いますが、この秋刀魚は木彫り。さらに一木造りの技法でできており、秋刀魚と置かれた皿は一つの木材から彫り出されているため、独立せずにつながっているそう。
彫刻刀を間にすべらせて、空間を作ったとのこと。慎重さと大胆さが必要な、まさに超絶技巧です。

この『一刻:皿に秋刀魚』(2014年)の作者、前原冬樹氏は、プロボクサーから転身して東京藝術大学へ入学し、油画科から彫刻へと転じ、木彫り彫刻家となったという異色の経歴の持ち主。世の中にはすごい人がいるものですね。

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高橋賢悟「origin as a human」(撮影可作品)


花が飾られた銀色の繊細な髑髏。見れば見るほど細かなパーツでできあがっています。
これは溶かしたアルミニウムを型に流し込み、細かなパーツを組み合わせて作られているそうです。

ほかにも鹿の骨で作った彫刻、橋本雅也『ソメイヨシノ』や、蛇革のバッグから蛇が鎌首を揚げる七宝細工、春田幸彦『反逆』など、才気あふれる若々しい現代作家たちの作品が、数多く展示されていました。

超絶技巧とは、ひたすら細密な技術のアートかと思っていましたが、元の素材がわからないほど別のものになっているという状態も指すのだと知りました。
作品を見ただけでは、それが何でできているのか、まったく見当もつかないものばかり。
色も質感も全く別のものに変えるまでに、作家は気の遠くなるような細かい作業を続けているわけです。
どうしてその素材でそれを作ろうとしたのか、不思議に思える作品がずらり並んでいました。

七宝、漆工、牙彫、木彫、自在、陶磁、金工、染織など、多岐にわたった出展作数は約150点。
小さな作品が多く、みんな覗き込んで鑑賞するため、なかなか列が進まず、慢性的に混雑しています。
学芸員が各部屋にいないことが少し意外でした。時折、ガードマンが巡回するのみです。
そのため、素材によく登場する「四分一」がなにを表すものか、聞けずに帰りました。
あとで調べたところ「金属工芸で使わる、銀と銅の合金」だとわかりました。

美術学校の学生たちが連れだってやってきて、熱心に鑑賞していました。
特に現代作家のものは、実物を目にすると得るところ大でしょう。
「この作者のtwitter、フォローしてるんだ」などとつぶやく声が聞こえてきます。
東欧人の2人組もおり、小さな声で異国の言葉を喋りながら、じっくりと鑑賞していました。

「驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-」
開催期間: 2017年9月16日(土)〜2017年12月3日(日)