2018年05月07日

ヌード NUDE −英国テート・コレクションより

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全出品作がヌードという、フルヌード展覧会。
思い切った企画ですが、ヌードは人間の永遠の興味の元ですから、話題を呼んで、かなりの観客動員数になることと思います。
昨年の上野の森美術館の『怖い絵展』しかり、テーマをぐっと絞ったものは、人が好みに合わせて足を運びやすいものですね。

予想通りに来場者が多く、大人気。
ほかの展覧会に比べて男性比率が多いように感じますが、女性客もかなりいます。 
なにより、単身で鑑賞している人の割合が高いように思えました。
夫婦らしきカップルの姿はありましたが、恋人との普通のデートで行ったら、集中できなさそう。
このご時世に合った、お一人様向きの企画ともいえます。

ちなみに、私は母と行きました。
親子で鑑賞するのは、デート並みにハードルが高いかもしれません。
ヌードのオンパレードに、母は圧倒され、困惑したようですが、ここまで徹底していると目が慣れて、羞恥心は薄れます。

ヌード特集といっても、人の素の美しさ、奥深さを表現している芸術的な展覧会。
女性の身体だけではなく、男性像も多く展示されています。
134点の展示品できちんと時代を追い、1790年代から現代までの約200年の間の、西洋美術における裸体表現法の歴史的変遷がわかるように構成されています。

構成は全8章。
第1章は歴史画が中心の「物語とヌード」
第2章は室内作品を集めた「親密な眼や神話画」
第3章は造形や色彩の新しい表現「モダン・ヌード」
第4章はエロスを連想させる「エロティック・ヌード」
第5章は20世紀前半の新しい芸術運動「レアリスムとシュルレアリスム」
第6章は描き方の表現を比較した「肉体を捉える筆触」
第7章は性や人種をテーマとした「身体の政治性」
第8章は1980年代以降の作品となる「儚き身体」。

● フレデリック・トレイン《プシュケの水浴》1890

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倫理的な風潮が強く、ヌードはご法度だったものの、物語や歴史のテーマなら裸体を描けた19世紀ヴィクトリア朝時代。
ヴィクトリア画の特徴である、きめ細かく大理石のように白い肌で描かれたヒロインの美しさが際立っています。

● ジョン・エヴェレット・ミレイ《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》1870

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ラファエル前派の表現。初めは騎士と女性が向き合う構図だったのが、卑猥だと言われて女性の向きを変えたのだそう。
かつての裸体画は、神話をベースにした神々しさを表現する描き方のみが認められており、この絵は生々しいと批判を受けたそうです。

● ハーバート・ドレイバー《イカロス哀悼》 1898

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いかにもラファエル前派らしい作品。イカロスの羽は立ったら引きずってしまうほどの大きく広がっています。
羽毛の中に呑み込まれそうな姿に、アニメ「ミクロイドS」を連想しました。
心配していると思われた3人のニンフは、青年の身体を凝視しているとのこと。そう言われれば、そうも見えますが…?

● エドガー・ドガ《浴槽の女性》1883

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「我らは鍵穴から女性を覗き見ているのだ」というスタンスで、対象に非常に近い目線を持つドガ。
ただ神話に描かれる理想的な裸体をよしとする風潮は、自然な裸体を描いたものは売春婦だとみなしたとのこと。まだまだヌードに厳しい時代です。

● ルノワール《ソファに横たわる裸婦》1915

新国立美術館で見た《可愛いイレーヌ》とはずいぶん違うタッチ。
こちらの自然な描かれ方を見ると、あちらは依頼主向けにかなり気を遣って描いたのだなあと改めて感じます。

● ジャコメッティ《歩く女性》1932-36

彼の作品らしい、引き伸ばされたように長くて薄い人体像。
もとは頭も腕もあったのが、作成途中で作家が取ってしまったそう。
そのために不自然なほどの細さと無個性がより際立つものになっています。

● ピカソ《首飾りをした裸婦》1968

ピカソ 首飾りをした裸婦.jpg

二度目の妻がモデルだそうですが、ピカソのモデルは、自分が描かれたものだとは実感できないでしょうね。
解説によって、マネの《オランピア》を参照にした作品だと知りました。

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【参考:本展非展示】マネ《オランピア》(1863)

ちなみにこちらが、上記ピカソ作品のもととなった作品。
さらにマネの《オランピア》は、ティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》の影響から描かれた作品。

ティツィアーノ作『ウルビーノのヴィーナス』.jpg
【参考:本展非展示】ティツィアーノ《ウルビーノのヴィーナス》1538

ウルビーノのヴィーナスからオランピア、そして首飾りをした裸婦へ。
3つの作品に、時代別のヌードの変遷が見られます。

● ロダン《接吻》1901-4

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唯一撮影可の作品。大理石の巨大な銅像で、3.8トンあるそう。
360度ぐるりと鑑賞でき、人はめいめいのポイントから撮影していました。

はじめは地獄の門の一つのモチーフとして作り始めたものだったのが、生の喜びあふれるものなので、独立したものにしたのだそう。
確かに地獄は死の国にありますから、伝える感情は真逆のものになってしまいますね。

時代が近づくに従って、どんどんヌードは卑近な、猥褻さを伴うものとなってきます。このテーマでのターナー作品を見るとは思いませんでした。ホックニーのゲイのカップルの挿絵など、同性の恋人を描いたもの、メイプルソープによる写真も展示されています。

さらに近代に進むにつれ、一層混迷を極めるヌード表現。
裸という一番原始的な姿から、あるがままの表現を越えた、不安と孤独に覆われる作品群が並びます。

● フィオナ・バナー《吐き出されたヌード》2007

今世紀に入ると人の形は失われ、言葉を羅列した表現に置き換えられていました。
書き出された言葉を読んでいくと、人の脳裏にヌードが鮮明に思い描かれるという効果でしょう。
これが最終形態なのでしょうか。今後はどんな表現でヌードは描かれていくのでしょうか。

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特別展を鑑賞した後、常設展も観ました。
貴重な宮川香山の眞葛焼コレクションが5点ありました。
また、先程のミレイの作品を、英国留学中の下村観山が模写した作品が展示されていました。

● 下村観山《ナイト・エラント》1904

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オリジナルを観たばかりなので、感激。
テート・コレクション集なので一緒に展示しなかったのでしょうけれど、参考作品として隣に並べても良かったのでは?と思います。
あまりにさり気なく飾られているため、特別展のみを観て帰り、こちらの作品を見逃した人は多そう。
これから行かれる方は、ぜひ常設展の方もお見逃しなく。

「ヌード NUDE −英国テート・コレクションより」
2018年3月24日(土)~6月24日(日)
横浜美術館
posted by リカ at 17:40| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする

2018年04月19日

プーランクの夜会

出演者:黒岩航紀(ピアノ)、伊藤優里(フルート)、佐竹真登(オーボエ)、矢野健太(ホルン)、大内秀介(ファゴット)、照沼夢輝(クラリネット)、岸本萌乃加(ヴァイオリン)

場所:東京工業大学 大岡山キャンパス ディジタル多目的ホール

プログラム
・愛の小径(フルート、ピアノ)FP106b(1940)
・オーボエ、ファゴット、ピアノのためのトリオ FP43(1926)
・ホルンとピアノのためのエレジー FP168(1957)
・フルート・ソナタ FP164(1956-57)
・城への招待(クラリネット、ヴァイオリン、ピアノ)FP138(1947)
・ヴァイオリンソナタ第2楽章 FP119(1942-43 rev. 49)
・六重奏曲(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、ピアノ)FP100(1932)

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La Tour Eiffel, c.1935 Raoul Dufy

東工大コンサートシリーズ2018春は、20世紀前半にパリで活躍した作曲家フランシス・プーランク(1899-1963)の室内楽作品集。
彼の曲は、親しみやすく美しいメロディや踊りたくなるような軽快なリズムが特徴です
中でも今回は、外国人がフランスに抱く洗練されたお洒落なイメージを醸し出す選曲とのこと。

『愛の小径』は、まさにそうしたパリの雰囲気たっぷりの、優美な一曲。
フランス人作家ジャン・アヌイの『レオカディア』の劇中歌で、ワルツ2曲とタンゴ1曲で構成されており、華やかな気分になります。

『城への招待』は、やはりジャン・アヌイによる舞台作品のために作られた曲で、世界中に限られた数のレンタル楽譜しか存在せず、その使用料が高いことから演奏機会が少ないために、幻の傑作とされているそう。
初めて聴きましたが、幻とするにはもったいない、ロマンチックな名曲。
もっと演奏の機会が増えればいいのにと思います。
(ちなみに日本では、ヤマハが代理店となって貸し出ししているそうです)

軽妙な曲ばかりかと思いましたが、『ホルンとピアノのためのエレジー』は、自動車事故死したホルン奏者への追悼作、そして『ヴァイオリンソナタ』は、飛行機事故死したヴァイオリニスト、ジネット・ヌボーの依頼による、スペイン内戦の際にフランコ政権に銃殺されたスペインの詩人ガルシア・ロルカへの追悼曲。
人の死を悼む、切なくも愁いを帯びたメロディが、演奏されました。

最後の『六重奏曲』は重厚な木管アンサンブル。
ヘミングウェイが滞在した、第一次大戦後のパリの街の狂乱がイメージされているそうです。
不協和音が響くモダンなフレーズあり、ジャズのテイストありの革新的な曲でした。

演奏者はこのシリーズによく出演される藝大卒業生の方々。
安定したタッチで息の合ったセッションを聴かせてくれました。
posted by リカ at 17:25| Comment(0) | 【music】Classic・室内楽 | 更新情報をチェックする