2017年11月06日

皇室の彩 百年前の文化プロジェクト

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東京藝術大学創立130周年記念特別展
「皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト」
東京芸術大学大学美術館


1. 皇室を巡る文化政策と東京美術学校

100年ほど前の大正期から昭和初期にかけて、皇室の御成婚や御即位といった御慶事の際に、高名な芸術家たちが自ら制作した品を皇室に献上しました。
海外でよくみられる、王室や国王が自らの権威付けのために、おかかえ宮廷画家に描かせた肖像画などではなく、当代きっての芸術家たちが皇室に献上した品々です。

また宮内庁も、宮殿の室内装飾作品や皇族同士のお祝いとして芸術家たちに制作依頼をかけており、皇室により日本文化の振興が促進されています。

宮殿内に飾られる美術工芸品の中でも、今回は東京藝術大学の創立130周年を記念して、その前身である東京美術学校にゆかりある皇室に関わる名作の数々が最初の部屋に展示されています。
東京美術学校の5代校長の指揮下で制作された作品が並び、当時の日本美術を席巻する、大観の絵画や光雲の彫刻、それに蒔絵や象嵌や鍍金は、どれも一流品のものばかり。

この部屋には、東京美術学校で教鞭をとっていた高村光雲の2作品、「猿置物」と槐の木目の美しい「鹿置物」がありました。
どちらも毛の質感まで表現されたリアルさに満ちています。

この国家規模の文化プロジェクトには、当代きっての作家たちが大勢関わり、合作も多く制作されました。
東京の名所が描かれた『東京名勝図・萬歳楽図衝立』や『東京名勝図扇面』のほか、かつての東京市からの献上品『東京市十五区名所図』がありました。

2. 大正十三年、皇太子ご成婚奉祝

次の部屋には、大正十三年の昭和天皇(当時は皇太子)ご成婚のときに献上された作品が展示されています。
関東大震災の直後で東京が壊滅的な被害を受けた時だったため、芸術家たちはこういった時にこそアートの力で奉祝の意を表そうとしたとのことです。

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高村光雲《松樹鷹置物》大正13年(1924) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

大正天皇、貞明皇后から息子である皇太子に贈られ、東宮御所(赤坂離宮)の玄関を飾っている鷹の置物です。

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『二曲御屏風』(腰彫菊花文様)のうち右隻 
昭和3年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵


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横山大観『日出処日本』 昭和15年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

富士山を得意とした大観。朝日と富士山という吉兆を描いた大作です。

絵画以外にも、蒔絵や飾り棚といった数々の工芸品が展示されていました。

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御飾棚 鳳凰菊文様蒔絵 昭和3年(1928)宮内庁三の丸尚蔵館蔵


こうした展覧会は、時折開催されているのかと思いきや、皇室献上後、皇居外で初めて公開される作品が多いとのこと。
「100年前の皇室が関わった文化プロジェクト」という、知られざる文化事業面が明らかになるこの展覧会。
二部屋だけのこじんまりした展示ながら、この時代の美の最高峰が展示されているため、観覧者は予想以上に多く、人々の興味のほどがうかがえました。

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会期: 2017年10月28日(土)~11月26日(日)月曜日休館
公式サイト:「皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト」
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2017年10月24日

北斎とジャポニスム

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「北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」
国立西洋美術館


19世紀後半に、長い鎖国を経て開国した日本。
海外に伝えられた日本文化は、西洋の人々を魅了し、"アール・ヌーヴォー"や“ジャポニスム”という現象を巻き起こしました。(逆黒船ですね)
中でも江戸時代後期を代表する浮世絵師・葛飾北斎の作品は、印象派の画家をはじめとした西洋美術のあらゆる分野に影響を及ぼしたといわれています。

見どころは次の3点。
① 北斎を切り口にジャポニスムという現象を読み解く、世界初の大規模展覧会
② 印象派やアール・ヌーヴォーなどの作品と北斎の作品を比べながら展示
③ 国内外の美術館、個人コレクターなど世界10カ国以上から名作が集結


国内外の美術館や個人コレクターが所蔵するモネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンをはじめとした西洋芸術の名作約220点と、北斎の錦絵約40点、版本約70冊の計約110点という圧倒的スケールで“東西・夢の共演”が実現
北斎の名作と、それに衝撃を受けたモネやドガなど西洋の印象派芸術家の作品を合わせて展示。

初日のこの日は、雨にもかかわらず、開館前には長い行列ができて、建物の周りを囲んでいました。
会場内も大混雑。運慶展の大きな彫刻をぐるりと回ってみてきた直後なだけに、初めのうちは小作品の多さにとまどいます。

西洋の作品と北斎作品を比較展示しており、同時に見比べることが可能。
完全に影響を受けているとわかるものだけでなく、(うーん、どこが?)と謎の残るものもたくさんあります。
観客は、並べられた二つの作品を見比べながら、じっくりと鑑賞していきますが、膨大な展示数のため、かなりの集中力と体力が必要とされます。

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展示構成は「北斎の浸透」「北斎と人物」「北斎と動物」「北斎と植物」「北斎と風景」、そして「波と富士」の6章。テーマごとに展示室の壁の色が異なっています。
あまりに膨大なので、チラシの項目に沿ってまとめます。

1.「北斎の浸透」

葛飾北斎は、歌川広重と並ぶ浮世絵の名手。よく知られる「冨嶽三十六景」の他にも狂歌本や読本挿絵、『北斎漫画』などの絵手本の版本、錦絵版画、肉筆画などを手がけ、浮世絵における風景画のジャンルを確立させました。

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● セザンヌが気付いたモティーフ

セザンヌは地元南仏のサント=ヴィクトワール山を異なる視点から捉えた44点の油画と43点の水彩画に残しています。
これは、北斎の『冨嶽三十六景』で、彼が富士山という同一モチーフを様々な場所や角度から繰り返し描いた「連作」という手法を学び、応用したものだそうです。

実際にサント=ヴィクトワールを見たことはありますが、形も雰囲気も、富士山ほど魅力的には思えませんでしたが、絵画集となると、無骨な山にも様々な表情が見られるようになります。
連作手法に気が付いたことそのものが、大きな変革だったのでしょう。

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葛飾北斎《冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二》天保元−2年(1830-31)頃
錦絵 オーストリア応用美術館


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ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1886-87年 油彩
フィリップス・コレクション(ワシントンD.C.)


まだ連作というものが無かった頃、ポスト印象派の画家アンリ・リヴィエールも、北斎の『富嶽三十六景』にちなんで作られた『エッフェル塔三十六景』を発表しています。

2.「北斎と人物」

● ドガを刺激したポーズ

ふんどし姿の男性が、バレリーナのポーズ及ぼす 可憐なバレリーナとふんどしのおじさんを比較 力士でもなかった
「踊り子の画家」と呼ばれたドガは、かわいらしいバレリーナを描いた作品を多数残していますが、それらが北斎の半裸の男に影響を受けたものだったとは!
あまりの意外さに驚きました。なかなかシュールです。

北斎漫画に描かれた力士のようなふんどし姿の男が紹介されています。
たしかにポージングは似ていますが。模倣ではなく影響ということだからでしょう。

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葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分)刊年不詳 浦上蒼穹堂


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エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》1894年
吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)


● カサットが愛した、気ままさ

貴族絵が主流の西洋美術では、富裕層の人物は行儀の良いポーズを取ってきました。
少女がだるそうなポーズを取っているは、『北斎漫画』の影響だとか。
このニコニコ顔の布袋さんがベースにあったとは。
逆に、そうした浮世絵の自由さに馴染んでいる私たちには、特に驚くような構図ではありませんが、西洋の画壇では、この絵の登場はかなりセンセーショナルだったんでしょう。

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葛飾北斎『北斎漫画』初編(部分)文化11(1814)年 浦上蒼穹堂


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メアリー・カサット《青い肘掛け椅子に座る少女》1878年 油彩
ワシントン・ナショナル・ギャラリー


3.「北斎と動物」

● ゴーガンが描いた、シンプルさ

ゴーガンは浮世絵に興味を持っていたとされます。
彼の油彩画には、北斎が描いた子犬と同じようにコロコロとした、平面的な子犬が登場します。

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葛飾北斎 『三体画譜』(部分) 文化13(1816)年 浦上蒼穹堂


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ポール・ゴーガン《三匹の子犬のいる静物》1888年 油彩 ニューヨーク近代美術館


このコーナーには絵画作品だけでなく、装飾工芸品も展示されていました。
ガレやドームの、昆虫や植物が描かれたガラス器も。

西洋美術の動物画は狩猟画から派生したもので、日本美術の花鳥画のように自然を愛でる要素は、元々ありませんでした。北斎絵画が大きなきっかけになったのです。

4.「北斎と植物」

● ゴッホを魅了した自然

西洋絵画の静物画には活けられた花がよく登場しますが、静物画として描かれる植物は、自然から切り離されたものでした。
実際に生きている野生の植物が絵画のテーマになったのは、北斎の影響を受けてから。
近景と遠景が見事に組み合わされています。

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葛飾北斎《牡丹に蝶》 天保2-4年(1831-33)頃 錦絵 ミネアポリス美術館


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フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 油彩
国立西洋美術館(松方コレクション)


5.「北斎と風景」

● モネが学んだリズム

北斎の作品を所有していたというモネ。
この二つの絵を見比べると、木々のバランスや構図などに確かに影響を受けていることがわかります。

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葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷》天保元-2年(1830-31)頃 錦絵 ミネアポリス美術館


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クロード・モネ《陽を浴びるポプラ並木》1891年 油彩 国立西洋美術館(松方コレクション)


6.「波と富士」

● The Great Wave off Kanagawa

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葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(1830-33年)


『神奈川沖浪裏』(The Great Wave off Kanagawa)が世界に与えた衝撃と影響について。
音楽の教科書に、この絵に影響を受けたドビュッシーが作曲したと紹介されていたは組曲『海』の楽譜も展示されていました。

絵画だけではなく、陶器などにも描かれているこの大波の構図。
本展とは関係ありませんが、今年、英国で最も権威あるイラストレーションコンテスト「V&A Illustration Awards 2017」を受賞したのは、『神奈川沖浪裏』をモチーフとしてトランプ大統領の髪型を重ねた風刺画でした。

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A. Richard Allen『Trump Wave』


自然全般に必要以上の目を向けず、ある意味"自然に興味がなかった"西欧絵画にショックを与えたのは、北斎の描く自然画でした。
波のほかにも、北斎の雪や動物、植物に発想を得た作品群がずらりと並びます。

そのほかにも、ルドンのグロテスクな怪物絵と北斎のろくろ首の幽霊画が並んでいたり、北斎の春画がクリムトの絵画と並んでいたり、モチーフは森羅万象、多岐にわたります。

テーマごとの比較展示という構成で、北斎の海外への影響が視覚的によく分かりました。
よくぞ、これだけの作品を集めたものだと思います。
西洋作品には常設展の作品も多く、西洋美術館が印象派の作品を多く所蔵していることでこれだけの規模の比較が可能となったのでしょう。
馬渕明子館長の専門で、館長自らが企画したという、かなり力のこもった展覧会。
この時代の比較文化を学んでいた私は、知識としては知っていたものの、実際の作品を並べて比較できる機会に恵まれたことは非常なる僥倖です。

西洋のアーティストたちの日本美術への憧憬が、いろいろな形になって世に出ていったとわかる展示の数々。
決めごとが多く堅苦しい西洋画壇に新鮮な風を吹きこんだ北斎画は、西洋アート史にパラダイムシフトを引き起こし、今なお影響を与え続けています。

北斎から印象派へ。印象派から明治美術へ。
広がっていった裾野の広大さを考えると、やはり北斎は世界的アーティストだと、改めて実感できました。

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開催概要
会  期  2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
開  場  国立西洋美術館(東京 上野公園)展覧会サイト
posted by リカ at 16:45| Comment(0) | 【finearts】西洋画 | 更新情報をチェックする